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「君は言った。『ああいうことするから、好きになった気になっただけじゃないですか』って。確かめたくて、ナンバーワンの娘を指名したんだ」
サラさんの言葉を待った。
「欲望は満たされた。でも満たされると、その娘がどんな娘だったのか忘れていってしまう。どんな風に笑うのか、声の高さはどうだったか……俺は君を忘れたくない」
この人は、全部正直に答えてくれた。
「……俺、こんな男だよ。軽蔑した?」
今度はわたしの番だ。
「わたし、サラさんがなぜかエッチしない人のように思ってて、ココアさんとしたのが裏切られたように感じて……勝手なのはわかっています。でも、自分に嘘をつきたくない……サラさんのこと好きかどうかわかりません。でも嫌いじゃないし、男の人とちゃんと向き合ってみるべきだと思うんです。勝手だけど、あなたにそういう人になってもらえたら」
ひどい。ひどいこと言ってるよね。でも、本当に掛け値なしの、今のわたしの気持。
サラさんは笑った。
「まずはお友達からってことかな。いいよ。じゃあ、モカちゃん、友達の握手」
と手を伸ばしてきた。わかってもらえた。受け入れてもらえた。その手を握り返す。
「それから、わたしモカじゃありません。本名は上条綾音です」
わたし、思い切り莫迦なことした。この人と付き合って、いつか別れるかもしれない。裏切られて、傷ついて、やっぱり男に幻滅する日が来るかもしれない。
でも嘘のない自分でいたい。なりたい自分になることを諦めないと決めた今日のことは忘れない。この寒さと青空の記憶と共に。
水の滴る音が遠くなる。いつか忘れるだろう。バイバイ、暗い部屋。
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