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和歌の好きな相手はどこかと調理室を見回すと、かなり遠くにいた。これでは和歌の料理姿を見ることはないだろう。仕方がないので偵察のつもりで、和歌の好きな相手、西くんの班に行ってみる。
こちらはどうやらかなり苦戦しているようだ。
西くんは豚汁の出汁を、きっちり教科書通りに作っているので問題ない。人参を切っている女子は、和歌よりもちょっと下手だけど、こちらも問題ない。でも他の二人は致命的だった。
まずジャガイモを洗ってない。皮を皮むき器で剥いているのに、泥付きの皮がなぜか三分の一以上、残ってしまっている。それに大根。いちょう切りというにはぶ厚過ぎる。五センチ以上はありそうだ。これでは火が通らないだろう。
鍋に入れる前に誰か気が付けば修正できるけど、西君も出来る方の女子も自分の作業に熱中していて、他の二人の作業を確認するような余裕はないようだ。土の付いた皮付きのジャガイモと、ぶ厚すぎる大根は誰にも止められることなく、とうとう鍋に投入されてしまった。
「あーあ」私は思わずつぶやく。「でも和歌が作った料理じゃないから、別に不味くてもいいか」
鍋の汁が沸騰し、野菜が煮えたかどうか確認しようと蓋を開けた西君が、ようやくぶ厚すぎる大根に気が付いて絶望的な顔になった。取り出して切るには熱すぎるし調理時間も終了間近。もう手遅れだ。西君は肩を落として味噌を投入した。けなげにもきちんと分量を測っているのが痛々しい。
他人事ながら、試食するのが気の毒になる出来映えだ。
「あー、まあ、うーん、うまいよ。うん」
豚汁を食べた西くんが言った言葉は衝撃だった。味オンチだという訳ではないのは、頬が引きつっているのでよくわかる。あきらかに無理している。
西くんの一言は、同じ物を食べている班の皆にも、あまりにも意外すぎたようだ。同じ生煮えと泥付きの具を噛みくだきながら、しかめ面をしていたメンバーが、思わず盛大に吹き出した。
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