新しい暇つぶし

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 おかげでジャガイモと大根の担当者が責められることはなかったが、味見に回ってきた家庭科教師は大根を箸で突き刺すと、「んー、厚すぎるから、火が通ってないね」と当たり前すぎるコメントをして、食べることなく箸を抜き取った。  お椀に口をつけ、「うん、出汁と味付けはいいんじゃないの」と言って次の班に移動して行った。  (やっぱり大根は生だったんだ。和歌の好きな人、なかなかいい人じゃないの!)幽霊なのにキュンとした。(…うん、和歌の相手に不足なし!)  私はあらためて心に誓った。和歌の恋を成就させてあげよう!  私の分析によれば、和歌は可愛くなくはない。むしろ顔の造作だけで言えば可愛い部類に入る。しかしどことなく地味なのだ。制服なのだから、みんな同じじゃないか、と思うかもしれないが、それは大間違いだ。同じ制服だからこそ、デティールで可愛さが大きく変わってくるのだ。  そこでまず手始めに、和歌の耳元で「前髪がうっとうしいなー、前髪切りたいなー」と叫び続けた。和歌の前髪は長すぎて目を半分隠してしまっている。和歌は綺麗な黒髪なのだが、それがかえって暗く野暮ったい印象を強めてしまっている。前髪がさっぱりすれば、卵型の顔と弓型の眉毛に小さな唇は、和歌の本来のふんわりとした雰囲気とマッチして、野原のスミレのような印象になるはずだ。  しかし一日中和歌の耳元で叫んでいたので疲れてしまって、久しぶりにぐっすり寝てしまった。幽霊なのに。  
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