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「和歌のスカートはちょっと長いから、和歌も折り込めば?」
えりは返事を聞かずに手を伸ばすと、クルクルッと手慣れた手つきで和歌のスカートのウエストを二回巻き込んだ。
「ほら、こっちの方がいいよ。ちょっと短くするだけでも違うよ」とうなずく。「簡単でしょ?」
簡単でしょ、というえりの言葉が突き刺さる。私には全然簡単なことじゃなかった。体がないって……、不便だ。
確かに前髪とスカートの変化で、和歌の可愛さは三割増しになった。でも……。人魚姫って、こんな気持ちだったのかな、と思う。本当は自分が嵐から王子様を助けたのに、たまたま通りかかった隣の国のお姫様に手柄を横取りされてしまった、みたいな。
(違うか……。えりは実際にスカートを折り曲げてあげていたものね……)と悲恋の代表の人魚姫すら羨ましくなって、ちょっぴりしんみりしてしまう。
「和歌、そのくらいの丈の方がいいよ。可愛い」
それでも言わずにはいられない。私が和歌の変化にひと役かったのは確かだ。たとえ、私しか知らなくても。口に出して和歌を褒めると、やっぱり口惜しさよりも嬉しさが増してきた。野球だってサッカーだって、応援しているチームが勝ったら嬉しいじゃないか。それでいいんだ、と自分に言い聞かせた。そう思うのに、その場にいて和歌とえりを見続けるのはいたたまれない。
「西君に和歌のスカートの事を教えなきゃ」と私は呟いて、西君を探しにふわりと浮かび上がった。
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