新しい暇つぶし

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 西君は昇降口にいた。靴を左手で出したものの、包帯で巻かれた右手が使えないので靴が履きにくそうだ。一緒にいた友達が「なにやっているんだよ」と軽口を叩きながらも、西君の鞄を持ってあげている。  靴を履こうとかがんでいる西君の丸い背中に、私はそっと寄りかかった。 (どうか重くありませんように)和歌に水をかけた男子の時とは逆の事を願う。(そして冷たくて驚かせませんように……。ほんの少しだけ、靴を履く間だけ、寄りかからせて)  「ありがとう」  西君の声にはっとした。見上げると、西君は待っていてくれた友達に顔を向けていた。私への「ありがとう」じゃなかった。だけど西君のありがとうは温かくて、いつまでも耳に残った。また聞きたいな……とふと思う。  昇降口を出て校門へ向かう西君の隣を歩きながら、西君に話しかける。本当は地面からほんの少し浮かんでいるのだが気にしない。  「西君。和歌はいい子なの。前髪が変わったの、気が付いた? スカート、ちょっと短くしたんだよ。明日見てね。可愛くなったんだから。あのね、私が教えてあげたんだよ。これって自慢げかな? でも誰も気が付いてないんだから、言うくらい、いいよね。それにどうせ西君にも聞こえないんだもんね……」28c36b0f-a22d-4a65-8194-e9b63048b3dc
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