下校の時間

1/16
前へ
/35ページ
次へ

下校の時間

 校門から西君が出ていく。私はその一歩手前で立ち止まった。外に出てもいいはずなのに、なぜかいつも勇気が出ない。学校から出てしまったら、ただの地縛霊になってしまう気がするのだ。復讐の座敷童。そんな不本意な名前でも、美環(みわ)高校の中では幽霊の私が存在する理由があるから、そう思うのだろうか。  遠ざかる西君の後姿を見送っていたら、私は幽霊になって初めて、学校の外に出てみようかという気持ちがわいてきた。西君の背中に付いて行けば、校門を越えられる気がした。息を大きく吸い込む。学校から出たらただの地縛霊になってしまうというのは、全然根拠はない。ただ外の世界に出るのが怖いから、思い込んでいた言い訳だ。  西君の背中が見えなくなったら前に進む勇気が消えてしまいそうだ。息を大きく吸い込んで、西君の後ろ姿だけを見て一歩、校門の向こう側へ足を踏み出す。幽霊だから足も体もないはずだが、言ってみれば脳内イメージだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加