82人が本棚に入れています
本棚に追加
校門を出ると、私はゆっくりと歩き出した。二年間学校に引きこもっているようなものだったので、見慣れているはずの風景も新鮮だ。ところどころ記憶にはないお店や家が建っている。
外へ出てみれば、何も恐ろしい事はなかった。私は初めて来る場所のように、周囲をじっくり見回しながら歩いた。
「あれ? ここって何があったんだっけ?」
私が死んでから新しく出来たのだろう。今は時間貸しの駐車場になっているが、以前は違ったはずだ。しかし何の建物が建っていたのか思い出せない。
「誰かの家……だったかなあ」と思うが、どんな建物だったのかは思い出せなかった。「なくなると、すぐに記憶から消えちゃうんだな……」胸がチリッとひりつく。
T字路に差し掛かった。西君は右へ行く。私の家は左だ。
「どうしよう……」少し迷ったが、せっかく外に出てきたのだ。家に帰ってみたい。西君に手を振り、私は左へ進んだ。いつもの帰り道。後ろから自転車に追い抜かれる。
「あっ、お母さんっ」
懐かしい青いチェックの服。二年前も着ていた。「お母さん、物持ちがいいんだから」といいながら、自転車の後ろの荷台に飛び乗った。幽霊だから、二人乗りはだめですよ、なんて警察官に咎められる心配はない。お母さんの腰に腕を巻き付ける。いつもの服にお母さんの匂い。私が死んじゃってから二年も過ぎたなんて嘘のようだ。
最初のコメントを投稿しよう!