下校の時間

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 「んー。リボン……。うまく結べればいいのに……」和歌がつぶやいた。  「教えてあげる。練習してみよう、ね?」と言って和歌の手を持ち、一緒にリボンを引っ張った。スルッとリボンがほどける。私の透けている手が、もう時間がないと訴えている。  (待って、あと少しだけ。お願い……)と頭の片隅で祈る。  「最初のコブが肝心。丁寧にまっすぐ、でもギュウギュウしないで」  私の声に合わせて、和歌はリボンを結んでいく。私から和歌への最初で最後のレッスンだ。下になっている方のリボンを輪っかに。上のリボンをクルッと回して。でも結び目はクシュッとするとシワがきれいに入る。両方から輪っかをひっぱって。輪っかの大きさを同じに。  「あ、出来た……」和歌は鏡の中の自分を見て、嬉しそうに笑った。  「うん! すっごく可愛いよ、和歌!」  私は消えかかっている手で拍手して褒める。鏡の中の和歌は、もう冴えない感じじゃない。古風な顔立ちに、ふんわりとしたリボンの制服がよく似合っている。完璧に野に咲くスミレだ。  「今までうまく結べなかったのに」  和歌は不思議そうに首を傾げる。  クスクス。その様子が可愛くておかしくて、私は笑ってしまった。和歌も一緒に笑った。私が笑ったからかな? もしかしたら私につられたのかもしれないと思うと嬉しくなる。  「ありがとう。私の……何かな。可愛くなろうとする勇気。出て来てくれて、ありがとう。」  和歌は目をつむって、グッと制服の胸の辺りを手で握って言った。  私は和歌を見つめた。和歌は私のことを感じてくれていたの? そして私のことを復讐の座敷童なんかじゃなくて、可愛くなる勇気って呼んでくれたの……?   「ありがとう。和歌……」
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