下校の時間

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♢♢♢♢  ティンローン、とスマートフォンの通知音がなった。あの子のお母さんが左手で器用に画面を開くと、息子から虹の写真が送られてきていた。「今、見えるよ!」とメッセージが書いてある。  特別なチョコレートが当たるという懸賞の応募葉書をテーブルで書いていたお母さんは、急いで右手に持っていたペンを置いて靴を履き、庭に飛び出した。空を仰いでキョロキョロと見回す。  「う、わーあ……」思わず声をあげる。そしていそいそとポケットからスマートフォンを出して手に取ると、夫にメッセージを送った。  「外を見て! 早くしないと消えちゃうよ!」お母さんはあえて画像は送らない。写真で満足してしまって、夫が外を見ない可能性があると思ったからだ。帰ってきたら「見た?」と聞いてみよう、と思う。スマートフォンを手に握りしめたまま、虹を眺めた。「一、二、三……。虹って本当に七色あるのねえ……」  見えているのは虹だ。だけど虹だけじゃない。パラッと降りかかった名残のお天気雨の粒が頬に触れた。お母さんはクスクスと笑った。  これはきっと、いたずら好きなあの子のアピールに違いない。だってあの子の笑顔が、虹の向こうに見える気がするから。  もしもさっき書いていた懸賞はがきで、特別なチョコレートが当たったら、あの子と一緒に食べよう。  「だから、あの懸賞当ててね」と、手を口の横に添えて内緒話をするように言うと、クスクス、とあの子によく似た笑い声を立てた。
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