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だ・け・ど…、「なかなかやりがいのある仕事だわー」と私は大きな声で言った。みんなには私の声は聞こえないから、声を潜める必要なんかない。
「大体、和歌は地味すぎるのよ。スカートの裾は長すぎるし、前髪も長くて目が隠れちゃっている。制服のリボンもギュッときつく結びすぎ。もうちょっとふんわりと結ぶと、可愛さがぐっとあがるのに」
和歌はおとなしいので性格的にも目立たない。彼女の良さも、本人を知ってもらわなければ伝わらない。
私は自分の胸の、ふんわりとキュートに結べているリボンを触った。幽霊の私には、シャーペンの芯を折る位の事はできても、あの子のリボンを結び直してあげることはできない。どうやって伝えようか?
日がある時間帯に私に出来るのは、ちょっと物を押す程度。夜の学校だったら、物は触れるし動かせるけど、誰もいないところでそんなことしても、(イジメの仕返しくらいにしか)ほとんど何の役にたたない。恋のキューピッドをすると決めたものの、リボンの結び方ひとつ教えてあげられないのだから、私の能力からしても前途多難だ。
おっと、次の授業は調理実習らしい。
「和歌、エプロン持った? 教科書持っていく?」と和歌の友だちの二階堂えりが、話しかけている。お姉さんタイプの二階堂えりは、おっとりした和歌の世話をよく焼いている。
「うん、作り方を確認したいし、一応、持って行くよ」
和歌はエプロンや三角巾の入った巾着袋と教科書を手に持って立ち上がった。
二人は今朝のニュースで見た芸能ニュースの話をしながら家庭科室へ歩いて行く。人気女優と中堅のお笑い芸人が結婚するらしい。
「えーっ、あの女優さん、結婚するの?」
と私も二人に話しかける。二年前にはその女優はまだデビューしたてで、高校生の役をやっていたのに、とびっくりする。まだ二十歳だ。電撃結婚と報じられているらしい。
学校にテレビはあるが、自分で点けられないので世間からうとくなってしまう。いつだったか、テレビのスイッチを入れようと電源ボタンを押したら、バチンと火花が散って壊れてしまったのだ。幽霊と電化製品は相性がよくないのかもしれない。
挿絵:ハナ様
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