いんふぇるの

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私は霊媒師の 三田村葉月(みたむらはづき) 小学5年生 霊媒師は悪霊や怪異から人々を守るのが仕事 私はこの仕事に対していつも思っている事がある 時は夏 夏には肝だめしだったり、曰く付きのスポット巡りというイベントが発生する季節だ 絶望しかない… 「おーい、三田村(サンダーソン)!今日の夜さぁー、肝だめし付いてきてよ」 ほら… 岡田くんと木村くん 二人ともやんちゃな男の子 「ダメだよ、そんな所に行っちゃ…死んじゃうよ…」 「大丈夫、大丈夫」 何を根拠に… 「三田村(サンダーソン)がいるんだから!」 「期待されても困るよぉ…」 ー廃病院前ー 時は23時過ぎ 小学生が出歩いて良い時間帯ではない 真っ暗闇で、虫の声がだけ聞こえる 「なぁなぁ、解説してよ!」 解説? 「何の?」 「何か見えるとか、感じるとかあるだろ?」 …恐怖しかない… 「わ、わかんないよ…そんなの」 「ちっ、使えねーやつ。行こーぜ木村」 「あーあ、こいつのリアクション全然おもしろくねーの」 木村くんはペッと唾を地面に吐き捨てた 芸人じゃないんだから そんなの無理だよぉ… 「おらっ、早く行けよ!」 ドンッと背中を押される 痛っ… 「あぅ…い、行く。行くから乱暴しないで」 何故か私が先行… 二人はぞろぞろ私の後ろを付いてくるだけだった 室内は錆び錆びのボロボロで崩れた所ばかりだった 下はゴミ溜めのように物が沢山転がっている 本当に何か出そうな所だ 帰りたい…もう、帰りたいよぉ… 更に奥の奥に進んでいくと手術室という部屋にたどり着いた 「きたきた」 「ここが噂の…」 何?何なの? 岡田くんが私の首に腕を回してきた 「よぉ、ここでな、お前に頼みたい事があんの」 「へ、へぇ…なに、かな?」 「カメラ持って、この中で待機しててくれよ」 「え!?」 「ここが一番幽霊出るらしいんだよ!な?頼むよ!1時間でいいから」 頼まれても困るよ 「そんな…」 「ひょっとしたら本物写るかもしんねーぞ、本物!写ったら、お前…金だ金!」 「でも、その間、岡田くんと木村くんはどうするの?」 それを聞いて キョトンとする二人 「俺たちは外で待機しとくに決まってんだろ?」 「き、決まってないよぉ。なんで?なんで私だけ?」 「おまえ、霊媒師じゃん…」 その一言とビデオカメラを残して 彼らは廃病院の外に出ていった 私は一人手術室の前で立ち止まる 「はぁ…やだなぁ…」 渋々ビデオカメラを起動する 「録画ボタンはーっと…あっ、これか…」 録画よし… 私は意を決して、手術室の中に入った 中は薬品の匂いで満ちていた でもやっぱりカビ臭い 鼻の奥をツンと刺激する匂い 倒れた椅子や戸棚が散乱している どの部屋もそうだけど…廃墟ってこんなに物が散らかってるものなのかな… 天井は黒い染みだらけ よく見ると人の顔にも見えてくる ヤバいヤバい すぐさま天井から目を背ける じめじめしてるし、本当に不気味で仕方ない所だった ここに1時間かぁ… はぁ…やだなぁ… ー1時間後ー 特に何もなかった… 「良かったぁ…」 私はほっと一息付いて、通って来た道を戻る 「あ、あれ?岡田くーん!木村くーん!」 廃病院の外に出たのだが、二人の姿が見当たらない どこにもいない… 「先に帰っちゃったのかな…」 いくら呼んでも、探しても、見つからないので私は帰る事にした 次の日、校舎の昇降口でばったりと木村くんに会った 「あっ、おはよう。木村くん。あの…木村くん?」 「……」 木村くんは口を半開きにしてヨダレを垂れ流しながら歩いていた 抜け殻になったかのように 私の声に反応もせず 喋ろうともしない ただただ歩いている そのまま私の前を通過して行った 「な、何なの…」 彼の背中を見送っていると 横から岡田くんが歩いてきた 「お、おはよう。岡田くん。あの…ビデオカメラ持ってきたよ……あの…カメラ…?」 「………」 岡田くんも口を半開きにしてヨダレをポタポタさせながら歩いていた 目に光はない。死んだ魚のような乾いた目をしていた 「何で…」 彼らは数日経っても、数ヶ月経っても元に戻ることはなかった 彼らに何があったのか…私にはわからない 何度目だろうか… …私はまた助けられなかった 霊媒師は悪霊や怪異から人々を守るのが仕事だ 私はいつも思っている事がある いつも思ってる 私は霊媒師に向いてない
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