二十年の報い

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「いいクラスだったもん、覚えてるよ。あ、滝沢君だ。今どうしてるかな」  クラス全員の集合写真。明るくて元気の良い生徒が多かったからか、先生が“ちゃんと整列してね”と言ってもどこかふざけたポーズを取る者が少なくなかった。菜々子が指差した“滝沢遼一(たきざわりょういち)”もその一人である。長身でイケメン、しかし気取らずクラスのムードメーカーとして有名だった彼。確か、当時はジェニーズ事務所に所属して、子役としても活躍していたのではなかったか。 「すっごくいい味出してる子役だったのに、大きくなったら全然テレビ出なくなっちゃったんだよね。本人の希望だったって噂だけど……もったいなかったなあ。絶対すっごいイケメン俳優として売れてたと思うのに!」  彼は先生受けも良かったし、気配りもうまかった。そして演技も、到底子役にしておくには勿体無いレベルだったと記憶している。何故やめてしまったのだろう。私の言葉に、ソファーで隣に座る菜々子もうんうんと頷いている。 「勿体無いと言えば、黒田さんもどうしてるかな。黒田花苗(くろだかなえ)ちゃん。中学生みたいって言われるくらい、モデル体型の美人だったでしょ。公立校じゃなくて、ちょっと遠くのお嬢様学校に通っているって聞いたけど」 「どうだろうねえ。ていうか、菜々子の初恋のあの子はどうしてるか気にならない?長谷部宙(はせべそら)君。同窓会のお知らせ来てたけど、今度会えるかな。すっごいデブなおじさんになってたりして」 「やだー朋香ひどーい!想像させないでよー!!」  お互いの好きな子、嫌いな子、苦手な先生に苦手な下級生。親友と呼んでも差し支えない間柄であったがために、話せば話すほど思い出はいくらでも蘇ってくるのだった。六年生といえば、恒例行事の修学旅行もある学年だ。私と菜々子は当然同じ班だったし、こっそり夜ふかしして先生に怒られるのも一緒だった。好きな子の言い合いとか、嫌いな子への愚痴も普通に布団にもぐりこんで語り合った仲である。  ズボラな私だが、卒業アルバムをちゃんと取っておいて本当に良かったと思った。私はずっと地元暮らしだが、それでも結婚して実家を出る時、自分の子供の頃の思い出の写真やアルバムをどれくらい持っていくか残しておくか、処分するかの選択は迫られたのである。卒業アルバムは大切な思い出の一つではあるが、いかんせん重たいし嵩張るのも事実だ。もう二度と友人達と会う機会もないし、捨ててしまおうかと思った時期もあったのである。 「あれ?」  ふと、ページをなぞっていた私の指が止まった。指し示したのははしゃいでふざけた顔を作っているみんなの写真ではなく――空の方だ。  空のあたりで、丸くくり抜かれたように別の写真が合成されている生徒が一人いる。卒業写真を撮る際、学校を休んでいて来なかった生徒だ。卒アルを後にみんなで見直す時、よくネタにされるアレ。今のご時世でもやっているのかどうか知らないが、当時は休んだ生徒はこうやって空のあたりに別の写真を合成して、一人だけお葬式写真みたいになってしまうのが常だった。  問題は。
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