始まりの翼

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 ExH(イクスハート)の競技で最もポピュラーな形式がExH(イクスハート)同士の戦いであり、パートナーたる人間はオペレーターとしてそれをサポートする。  戦闘を好まないCOREもいるものの、大概は戦闘行為によってエネルギーを発散するのがExH(イクスハート)にとっては最もストレス発散となり、人もまたExH(イクスハート)の事をより理解を深めるのに適している。  当然ながら、ExH(イクスハート)の武装は非戦闘時においては使用不可の制約がかかり、戦闘する場合は魔法立体フィールド生成機という大掛かりな装置が作り出すバトルフィールドに限定される。  そして、バトルフィールドは未知のエネルギーたる魔法とそれが生み出す魔力と呼ばれる粒子体を使い生成される仮想立体空間と言うべきものであり、陸海空はもちろん気象などありとあらゆる環境を仮想現実として作り出し、そうした特定の対戦環境に特化したExH(イクスハート)も存在している。  日夜(ひよ)学園ExH(イクスハート)研究部は旧校舎横の古い庭の敷地を利用し、魔法立体フィールド生成機を備えたバトルフィールドも有しており、練習試合はもちろんExH(イクスハート)の動作確認も行える。  巨大なオベリスクを思わせる黒い金属柱のフィールド生成機の側にいるグレイは思わず「すごいな」と感心の言葉を漏らし、装置の調整をするハルトが作業しながら自慢げに解説を始めた。 「見た目は旧式ですけど、中身は最新の生成機とほぼ同じものです。庭の広さはそんなにないですけど、フィールドの採寸を調整すれば擬似的に広さを確保できます」 「部室の整備機械もだが、機材は全て手作りとは恐れ入る。それもまた君の手腕か」 「いえ、僕は部員ではないですから、既に作ってある機材の調整とかメンテナンスを手伝ってるだけです。えと……調整があるので失礼します」  そう言って控えめにハルトはグレイに一礼し、フィールド外にて準備を進めているユウキとそのパートナーブラックの元へ行き、慣れた様子でブラックの装備を装着し調整作業を進める。  ExH(イクスハート)関連の機材は国際ExH(イクスハート)委員会(IEC)でも無料貸出はしているが、それに頼らず自分達の知識と創意工夫で機材を作り出すというのはチャレンジ精神と確かな技術の証明。  そうした要素も新たな才能を見つけるグレイとしては判断材料となる。もちろん、メインとなる技術はExH(イクスハート)がどのようなものでどのような創意工夫がされ、より良い関係を築けているかどうかだ。  パートナーの調整に入るユウキ、そしてカオリの方に目を向けたグレイはそれぞれのExH(イクスハート)の特徴を目視で推測しつつ、作業の様子を観察し始める。 (ブラックと呼ばれてる方は装備換装式の電子兵装搭載可能ExH(イクスハート)か……対して、ヒメカワ部長のパートナーは高機動型か)  一目見ただけでグレイはブラックことB(ブリッツ)シャークスの特徴を看破しつつ、向かいにて準備を進めているカオリにも目を配る。彼女の隣には、巨大なスズメバチを模したExH(イクスハート)が静かに待機している。  Q(クイック)キラービー。CORE名クイーン。カオリのパートナーである、雀蜂型高機動ExH(イクスハート)である。  ブラックの調整作業をハルトは慣れた様子でこなしていく。回路や配線の位置、COREから供給される魔力の伝達率……様々なものを手早く、そして効率よく行っている。 「ハルト、調整はガチにしなくていいからな。練習試合なんだから」 「それはそうだけど……でも、ブレイブ監督の目の前で手を抜くってのはできないよ」  ユウキはいつになくハルトが興奮を抑え、目を輝かせているのに気付きあぁなるほどなと自分なりに納得をする。  B(ブリッツ)シャークスの両腕側面に装着した青色のヒレ型ユニット、そして今しがたハルトが調整を済ませた同色の大きめの二連砲は背中に装備。 「前回はジャミングしようとしたらその前に潰されちゃったから、今回は遠距離対応の方に重点を置いてみたよ。ブラックは計算力も速いから見越し射撃もできると思うしユウキもそういうの得意だからね。ただ砲戦装備は重量があるからその分の機動性が落ちるのや連射が効かないから正確に撃ち抜く必要があるしQ(クイック)キラービーは小回りもかなり効くから当てるには工夫がいるし、そもそもヒメカワ先輩のオペレーター能力の事も考えると……」  穏やかで聴き取りやすいハルトの口調が次第に早くなり、早口言葉のようになり始めたところでユウキは手にしていたドライバーの持ち手部分で頭を軽く叩いて止めさせた。  そしてハッと我に返ったハルトはそれを部員達やグレイに見られていたと気づき、慌てた様子で工具類を片付けそそくさと隠れるように部室へ道具を返しに行く。 「ハルト様らしいです。本当にExH(イクスハート)が好きなのだとわかります」 「お前がそう言ってくれるだけでもフォローになるよ。ま、B(ブリッツ)シャークスはあいつが設計して俺と一緒に作ったってのもあるんだろうけどな」  丁寧な言葉遣いのブラックに感謝の気持ちを持ちつつ、ユウキは黒いインカムに似た機械を右耳に装着し、左手首のリング型デバイスに触れ、その二つの機械をリンクさせた。  同じように、カオリもまた黄と紫のインカムに似た機械と手首につけたリング型デバイスをリンクさせ、準備を完了する。
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