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「フィールドを展開させて!」
カオリの指示を受けてタブレット端末にて部員が魔法立体フィールド生成機を起動させ、綺麗な音色にも似た特徴的な起動音と共に四つの柱を結んだ中に仮想立体フィールドを作り出す。
作り出されたのは平野。短い草が茂る高低差は比較的少ないが、障害物として大小様々な岩が散乱している練習には適したフィールドである。
同時にカオリ、ユウキの装着しているインカム型デバイスが両者の目元を覆うようにバイザーを展開、リング型デバイスもいくつもの立体映像を映し出すパネルを浮かび上がらせた。
それぞれのデバイスの名はクロスカムとデバイスリング。平時は電話や検索端末と言ったマルチデバイスだが、真の姿はExHをサポートし通信を行う為の万能専用ツールである。
クロスカムのバイザーはバトルフィールドと同じ原理を応用した立体映像であり、これ単体でもExHとの通信はできる。だがそれだけではあまりにも情報が大きい為、デバイスリングと併用する形を取ることでその問題を克服しつつオペレーター側の技量を求める形となり、人間はオペレーターとして自分のExH支援し、的確な判断と指示、状況把握などを行う事が求められ共に戦う感覚が養われる。
両者のExHがフィールド生成機の境界を通ってフィールド内へ侵入し待機状態へ移行、それに合わせてデバイスリングの浮かべる立体映像パネルに機体状態などの情報が文字やグラフなどで表示され、クロスカムのバイザーにSTANDBYの文字でオペレーターに待機指示を出す。
フィールドが形成されたのに気づいてか、ハルトが部室から慌ただしく走って戻り、小さく息を切らしながらフィールドの隅にて観戦の姿勢を取る。
(あれ? いつもよりフィールドの再現性が悪い……?)
ふと気付いた違和感。魔法立体フィールド生成機の再現性というのは極めて高く、現実ではあり得ないようなものでも可能とする。
ハルトが気がついたのはフィールド生成機の柱が結ぶ境界の僅かな乱れ、そこから広がる乱れによる些細な違和感。恐らくは数日前にあった地震のせいで接地面が少しだけ浮いてるためにその分の誤差が出てるのだとハルトはわかり、試合が終わったら柱がちゃんと接地しているかを点検しようと思った時だった。
練習試合が始まる刹那、一瞬引いたような感覚の後に訪れるのは突風。
旧校舎の配置と構造から突風はよくある為、それに耐えうるように庭の魔法立体フィールド生成機は計算して配置され、安全策も取られている。
しかしその時に吹いたそれは非常に強いものであり、旧校舎はおろか学園全体に及び学園祭の準備をしていた生徒達に襲いかかり作り途中の飾りなどを吹き飛ばし、破壊し、そしてExH研究部のそれは魔法立体フィールド生成機のひとつを大きく揺らし、大きく傾けさせるものだった。
「クイーン!」
突風に煽られる中、傾く柱に真っ先に気づくのは部長のカオリ。パートナーのクイーンの名を呼びつつ、デバイスリングによって指示を出し、急ぎ飛翔したクイーンは倒れる柱の先端を掴んで転倒を阻止する。
が、学園の校門の大きな見出し看板が庭の方に飛んで別の柱に直撃、その衝撃と看板が風を受けた事で柱が傾き、生成されたフィールドが消えると共に倒れ始めた。
「急いで逃げて!」
倒れた柱がクイーンが支えるのとは別の柱に激突して傾き始め、部員達はカオリの避難指示よりも先に倒れる柱には巻き込まれずに済む。
が、旧校舎に一本は向かい、一本は一人離れていたハルトに向かって倒れ始めてしまう。
「ハルト逃げろ! ブラック!」
ユウキの指示を受けたブラックが素早く駆けてハルトの方に向かいかけるが、同時にユウキに向かって飛んでくる生成機の内部部品に気付き優先順位をそちらに変え、ユウキを庇う形でそれを身に受けて守り切る。
かたやハルトは隅の方にいた為か風が最も強くぶつける場所で身動きが取れず、柱を避けるのが困難となり目を強く瞑った。
自分の名を叫ぶユウキとカオリの声が耳に入るハルトは自分の前に感じる熱気に気づき、風が止むと同時におそるおそる目を開け自分の目の前にて柱を支えるExHに気づく。
(灰色の悪魔……?)
こちらに頭を向ける赤き単眼、重厚な鎧を纏う悪魔とも石像とも取れる人型のExHは片手で柱を受け止めて押し返し、足をほんの少しだけ浮かせながら移動して元の位置へと立たせた。
「念の為にクリムをスタンバイさせて置いたが、どうやら結果的にはよかったようだな」
ハルトを助けたのはExHクリムゾンガーゴイル。COREであるクリムはグレイのパートナーであり、現行最強と呼ばれるExHだ。
グレイが顔の動きで意思を伝えると、何も言わずにクリムは地を滑るように高速で移動してその場から姿を消し、残ったグレイは小さく息をついて荒れに荒れた庭内を見回し被害の大きさを感じつつこれからの事を案じていた。
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