帰り道

9/9
前へ
/9ページ
次へ
 巨大な穴の縁からのぞき込むと、井戸の中のように真っ暗である。  私が飽きずに眺めていると暗やみから小さな光が差してきた。  穴の底に誰かがいる・・・・・・。  それは、まるで地球の反対側から誰かがのぞき込んでいるかのようだ。    あのおじさんだ。 ニタニタ笑っている。  恐ろしく遠い距離なのにおじさんの顔がはっきり見える。  おじさんの右手には石が握られていて、それを口の中にほりこみ、ケラケラと笑い声を立てた。 「カー」  カラスの鳴き声が遠くに聞こえ、空を見上げた。  地面に視線をもどすと、穴は無くなっていた。  それから、私は二度と石蹴りをしなくなった。                                      (了)  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加