サウナ好きの奇妙な話

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「一緒に“ととのえ“に行かないか?」  社会人にとって貴重な年末年始の休みがあっという間に過ぎ去った後、営業部では昼間には挨拶回りをし、夜には賀詞交歓会という名の接待に出かけている者もいて、建設資材を取り扱うメーカーの社内には終始慌ただしさが漂っていた。  経理部は別な意味で慌ただしかった。年明けから四半期決算が始まるからである。やがて、新年早々から始まる仕事も下旬になる頃には落ち着きを見せていた。   入社4年目、経理部の藤堂は残業を終え、デスクをさらっと片づけると帰り支度をしていた。その様子を見ていた同じく経理部の係長の野田は藤堂に声をかけたのであった。藤堂は返事をした。 「ととのえって、もしかして、サウナですか?」 「おう、当たり前よ、どうだ、いけるか?」  ととのえ、もとい、ととのえる。サウナ好き、すなわち、サウナーの間でよくいわれている言葉である。〈サウナ→水風呂→休憩〉これらのサイクルを行うことで、体の調子やバランスが整い、リラックスすることができる。エクスタシー。つまり、極上の快感へと到達できるのだ。野田は脳内麻薬を分泌するべく藤堂をサウナに誘った。 「はい、大丈夫です。でも、私、お風呂は長湯しない方ですし、サウナもすぐにのぼせてしまうと思います。大丈夫ですか?」 「ああ、大丈夫だ。すぐに上がってもらってもけっこうだ。もちろん、俺の奢りだ」 「いえいえ、私が出しますよ」 「いいってことよ。とりあえず事務所を出るか」  藤堂と野田は帰り支度を済ませると、会社から最寄りの銭湯に足を運んだ。  泡がブクブクと発生する低刺激が心地よいバイブラ、肩、腰、尻にあてると気持ちよいジェットバスなどを経て、二人はサウナ室に入った。浴室にはちらほらと先人の客たちがいたが、サウナ室にはおらず貸し切り状態だった。 「よし、藤堂入ったな。これから、この砂時計を逆さにする。砂が全部落ちるまで出るんじゃないぞ。はい、よーいスタート!」  野田が手を叩き始まりの合図を告げた。 「ちょっと、野田さん、ひどいじゃないですか。私、熱いの苦手だっていいましたよね?」 「冗談だよ。そんなこといったら、パワハラになっちまうからな」  野田はニヤッとした表情で藤堂の横顔をちらっと見ると、藤堂は苦笑いを浮かべていた。  サウナ室は10秒間ほど静かになった。だが、野田が口火をきった。 「サウナで思い出したんだけど、この間、家の近くのサウナに入ってたんだよ。そしたらさ、納得した話があってさ」 「えっ、なんですか?」  藤堂は興味を示し訊いた。 「あのな……」  野田は思い出すようにいうと話し始めた。
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