45人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
三つの頭を、よしよしと順に撫でてやる。そうしていると、母から声が掛かった。
「さあ、できたわよ。皆で仲良く運んでちょうだい。沙希人と凪逢は、着替えておいで」
「ご飯を運ぶよ!」
「ごはん、はこぶ!」
「ごはんっ」
懸命に食事の準備を進める妹弟たちを微笑ましく思いながら、土に汚れた服を着替えるべく背を向ける。そうして凪逢と二人で戻ると、家族が揃って食卓の前で待っていた。
「お待たせ」
「待っていてくれて、ありがとう」
「さあ、揃ったわね。――では、今日も家族でご飯をいただけることに感謝して。いただきます」
母に続いて、皆で唱和する。
目の前に並ぶのは、畑で作った野菜たち。中には、ご近所さんと交換したものもある。
「この煮物、美味しいな」
「それね、わたしが作ったの」
「そうなのか。沙雪の作ったご飯が食べられるなんて、兄ちゃん嬉しいよ。なあ、凪逢」
「そうだね。とても美味しいよ、沙雪。疲れていたけれど、これで元気いっぱいだ」
「本当? 良かった」
十歳の妹が、おれたちの言葉を受けて得意げに笑う。
「沙登史が大人しく一人で遊んでいてくれたから、作れたんだよ」
「そうか。沙登史、ありがとう。後でいっぱい遊ぼうな」
母の横に座る、三歳になる弟の頭を撫でる。
妹は次に、真向かいへ目線をやった。
「沙介はね、皮むきを手伝ってくれたよ」
「そうだったのか。沙介がお手伝いをしてくれて、兄ちゃん嬉しいぞ」
口いっぱいにご飯を詰め込んでいる六歳の弟が、褒められて嬉しそうにする。しかし、あまり噛まずに飲み込むものだから、沙雪に注意されていた。小さな唇が尖り、不満を露わにする。喧嘩になりそうな雰囲気を、柔らかな声が破った。
「沙介、皮むきしたの? どうだった?」
優しい口調で問いかけたのは、凪逢。沙介の表情が、ぱっと切り替わる。
「たのしかった!」
「そう、楽しかったの。じゃあ、楽しく皮むきした野菜、どんな味がする?」
問われて考え込む沙介。ハの字の眉毛で首を傾げていた。
「あじ……わかんない」
「そう……じゃあ、どうすれば味がわかるかな?」
「えーっと……ゆっくり、ちゃんとかむ?」
「ふふ。じゃあ、今度はゆっくり、ちゃんと噛んで食べてみようか」
「うん!」
野菜を選んで、口に運ぶ弟。嬉しそうな姿に、そっと隣の親友へ耳打ちをする。
「さすがだな」
「きみの真似をしているだけだよ」
「おいしい! やわらかくて、あまいよ!」
「柔らかくて、甘いの?」
「うん!」
最初のコメントを投稿しよう!