儚き日常

6/22

45人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ
「じゃあ、ぼくも食べてみるよ。……うん。本当だ。甘くて、美味しいね」  味わうように、ゆっくりと一つ一つ食べる沙介の姿に、沙雪の表情が曇る。おれは、そんな妹へ声を掛けた。 「沙雪が二人の面倒を見ていてくれて、兄ちゃんは本当に嬉しいよ。していたことを教えてくれて、ありがとう」 「うん……でもね、沙希人お兄ちゃん。沙介は、時々言うことを聞いてくれないから、困るの」 「そうか、沙雪は困っているのか。じゃあ、どうしたら困らなくてもよくなるか、考えないといけないな」 「考える?」 「そうだよ。沙雪は、沙介がどうして言うことを聞いてくれないと思う?」  問われた妹は、ややあってから口を開いた。 「聞きたくないことだから。だから聞かない。遊びたいから遊ぶのをやめないし、いっぱい食べたいから、ゆっくり食べるのを嫌がった」 「そうか。じゃあ沙雪は、その気持ちを聞いてもらえないままに怒られたら、どう思う?」 「すごく嫌な気持ちになる。どうしてわかってくれないの? どうして怒るの? って思う。……あ、そっか」  沙雪の気付きに、おれは微笑んだ。おれの妹弟たちは、とても賢いな。 「ごめんね、沙介。怒ってばっかりのお姉ちゃんを、許して」 「いいよ」  よくわからないなりに、許しを伝える沙介。それでも、沙雪の表情は晴れない。 「大丈夫。皆、沙雪が大好きだから。沙雪が大切に思ってくれていることも、伝わっているよ」 「凪逢お兄ちゃん……」 「沙雪は沙雪で、家族のために行動してくれている。それは、間違いじゃないと兄ちゃんは思う。だけど、誰か一人の思いだけを優先していたら、違う考えを持つ別の誰かが、我慢し続けなくちゃならない。それは、悲しいことだと思う。だから、そうならないように、皆でこうやって考えよう。話し合って、皆が納得できる選択肢を探そう。皆が笑顔になれるようなものを見つけるんだ。大丈夫。きっといい答えが出るよ。だっておれたちは、家族なんだから」 「沙希人お兄ちゃん……」 「そうよ。皆、大切な家族ですもの。わかったら、ほら。冷めないうちに食べてしまいなさい。せっかくの沙雪の料理が、もったいないわ」 「お母さん……わたしも、皆が大好きだよ。ありがとう」  家族って温かい。こうやって一緒に同じご飯を食べて、何があったかを伝えあって。様々なことを共有しながら、成長しあえる。  時にぶつかりながら。時に支え合いながら。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加