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いつもおれたちを信じて、静かに見守っていてくれる母さん。その信頼と愛情、安心感に包まれて。互いを思う愛情を、肌で感じられて。喧嘩をしても、迷惑をかけても、最後にはこうして笑いあえる。
こんな幸せが、ずっと続けばいい。これ以上なんて、何も望まない。
だというのに、どうしてなのだろうか。保つのは難しいのに、崩れるのは一瞬だなんて。
だけど、おれは。
縋った永遠が、どこにもないのだと知っていた――
「う……っ」
瞬く間の出来事は、無音だった。
一呼吸遅れて、時が動き始める。
無意識の状況確認。
日常は、おれの目の前から消え去った。
「何が、起こって……」
家がない。おれは、地面に転がっていた。
腕に力を込め、体を起こす。だが、足が動かない。激痛が、神経を駆け抜ける。だけど今は、そんなことなどどうでもよかった。
「ぐっ……皆は……母さん、沙雪、沙介、うっ、沙登史、凪逢……」
地面を這いながら、痛みを堪えて家があった場所を目指す。
瓦礫の山。どうして家が潰れて、おれは吹き飛ばされているのか。
家族はどこだ。皆、無事なのか。わからない。何もわからない。
焦りと痛みが脳内を支配する。父親の姿が脳裏を過り、必死に振り払った。
前方から悲鳴が聞こえる。近所のおばさんの声だ。
「え――」
瓦礫の向こうから現れた大きな影に、ひゅっと喉で音が鳴る。目の前の光景が信じられなくて、瞬きすら忘れてしまった。
「どう、して……」
それは、見たことのない生物だった。
四つ足の、家くらいの大きさをした生き物。太くて短い、丸みを帯びた頭部。黄褐色の体毛に覆われ、尾が生えていた。口元には大きな牙。足先には尖った爪。鋭い眼差しは、飢えている。
そうしてそれは、血肉を貪り喰っていた。
「あ……そん、な……」
辺りを染めるのは、鮮血。何軒もの家が壊され、逃げ惑う人々の悲鳴が青空の下で奇妙にこだまする。
誰かが叫んだ。
「禍神だ!」
あれが禍神かと、呆然と捉える。どうしてが、脳内をループする。
だってここは、安全区画のはずなのに。なのに、どうして……。
「沙介!」
禍神の足元に弟を見つけた。虚ろな瞳の、腹を裂かれた姿で転がっている。
「沙雪! 沙登史!」
沙雪が庇おうとしたのだろう。二人が瓦礫のそばで、重なるように倒れていた。
おれは、急いで彼らの元へ向かう。動かない体がもどかしい。
「沙雪……沙登史……」
這いながらも、ようやく二人の元へ辿り着いたおれは、ぐっと唇を噛んだ。
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