2nd episode. 羽を伸ばすバケモノ

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2nd episode. 羽を伸ばすバケモノ

~♪~♪~♪ 下校チャイムが鳴った。 誰よりも先に教室を出て、靴を履き替えて校門を飛び出す。 うっすらオレンジがかった夕暮れの空。 思い切り深呼吸すると、解放感が肺をくすぐってくる。 「ん~自由だ~!さ、どこに行こうかな。」 私は「ぼっち」だが、行動力はあると自負している。 地下鉄を使って校区から離れた繁華街に行くのも趣味の一つ。 お気に入りは大きな何階建てもある書店や、無数の布地やビーズがある手芸店。 帰宅ラッシュ手前のまだ空いている地下鉄。 いつものドアから乗車し、いつもの降り場で効率良く地上に出る。 まだ暦の上では冬だけど、ちょっと春めいた風が吹き抜けている気がした。 今年は暖冬らしいから、そのせいかもしれない。 視線を上に向けて、繁華街のメインストリートを歩く。 学校では視線を上に向けることなんて、教室の時計を見るとき位だ。 前髪でほとんど目が隠れているから、本当にバケモノっぽく見えているのかな。 そう思うとちょっと笑えてきた。 「あの…すみません!」 「はい?」 ふいに一人の人間が私に話しかけてきた。 新手のキャッチか?と思ったけど、私に声なんてかけても何も得しないだろう。 「僕、美容室の…新人アシスタントなんですが…その…」 「その…?」 「髪の毛、切らせてもらえませんか?もちろん、お代は戴きません!  僕が一人前になるために、貴方の髪の毛を切らせてほしいんです。」 「ふむ…練習台ってことですか?」 「い、いや、そういうことでは…もちろん仕上げは先輩が見てくれますし、変にはしません!」 ー『バケモノも飼いならすと便利だよね~!』 フラッシュバックする胸糞悪いあの言葉。 「私、バケモノって学校で呼ばれてるんですが、大丈夫ですか?」 前髪をわざと片手で暖簾のように持ち上げながら私は問いかけた。 煩いくらいの街のノイズがミュートされ、彼は言葉を失っていた。 おお、とうとう時を止めてしまった…。 そんなことを考えているうちに、彼は真っ赤な顔でこう言った。 「だ、大丈夫です!僕がキレイに生まれ変わらせます!信じてください!」 なんだか口説かれているような気になって可笑しくなってきた私は、3秒待ってこう答えていた。 「じゃあ、信じてみます。」
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