3rd episode. トリミングされるバケモノ

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3rd episode. トリミングされるバケモノ

店はすぐ傍にあって、何人かお客さんが入っていた。 地下にある美容室って見つけづらいのに…などと無駄なダメ出しを心に浮かべながら椅子に座る。 「改めて、今回はカットモデル引き受けてくれてありがとうございます!  僕は斎藤といいます。21歳でこの店の新人です。精一杯やらせていただくので、よろしくお願いします!」 「私は十和田南帆といいます。高校1年生です。よろしくお願いします。」 美容師と客とは思えない、合コンのような挨拶を交わした。 この時点でまた笑いがこみ上げてきてしまったが、その上がった口角に斎藤が気づいた。 「何か面白いことでもありました?」 「ええ、とても。」 「それは良かったです。じゃあ、スタイルの話しますね。」 深堀りしてこなかった。スルースキルを発揮されたのかもしれない。 私はこの絶妙に噛み合わない会話が気に入っていた。 「おお、斎藤!モデル見つかったのか。」 「はい、カズさん。さっきそこでスカウトしました。」 鏡を凝視する私の背後で、先輩らしき美容師と斎藤が話し始めている。 「お前、今回ボブのテストなの伝えた?ロングの子だからさ。」 「あ!!!!!」 嫌な予感がする。 「あ、あの…十和田さん、今回は切らせていただく長さが決まっていて…その…」 なるほど、無料でやる代わりに髪型は指定なのか。 面白い。 「いいですよ。」 「え?」 「バッサリいっても、いいですよ。特に思い入れないので。」 「そ…そうなんですね、では、僕に任せてもらっても大丈夫ですか?」 「ええ、そのようにしてください。」 「ありがとうございます!」 斎藤は鏡越しに深いお辞儀をしてくる。 それもなんだか可笑しくて私は口角を制御しきれなかった。
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