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「ねーさんはさ、なんでこんなところに越してきたの?」
青年は母親譲りであろう瞳を女に向けた。
中性的な顔つきで、男ながら美人だと皆が口を揃えるその容姿は、人里離れたこの場所だからこそ育まれた純粋な心が、体を表しているようだ。
もし彼が都会に暮らすようになってしまえば、2年もすればこの汚れを知らない綺麗な目は、薄く汚れてしまうのだろうか。
「あなたは、どうしていつも私に付き纏うの?」
少年は、女の問いに沈黙を選んだ。
女は特に何も思わず、ゆっくりと坂道を降った。
少年の返事を待っているのだ。
質問をしてきたものの、興味があるわけでもないし、付き纏われることに何か嫌気が差している様子でもない女から少年は目線を晒し、でも彼女を観察した。
「ねーさんが、寂しそうだから。」
「私が?」
「うん。」
「そう。」
コオロギが、草むらのどこかで、または見えてないだけの限りなく近い場所で、静かに羽の音を鳴らし始めた。
秋が訪れた小高い丘から、ゆっくりと坂を下る2人は確かに1人の時間を、1人にならないように一緒にいる血のつながらない姉弟に見えなくもない。
無理に話すことも、話を合わせることも、取り繕うことも、曝け出すこともしなくていい。
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