吸殻

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「それでさ、あとはここにも行こうよ。」 嬉しそうに携帯の画像写真を見せながら、男は話していた。女は、そうだね。と優しく答える。 今日で会うのは4回目だろうか。 一月の下旬、厳しい寒さが振り返し、人肌が恋しくなった。ただそれだけで捕まえた、この目の前にいる男。顔つきは少し強面だが、気は優しく、体の線は細い。身長もそれなりに高い。年も近く、話も面白い。甘え上手で、経験も豊富だから、女は安心して遊べると思っていた。 楽しい会話をして、セックスをして、時間を潰して、身を寄せて温め合う。飽きれば辞める。 どちらかがハマれば終わる。 ただそんな関係。 もう今日ぐらいで会うのは最後かな。 今後の予定を無邪気に話す男を見ながら女はそう思った。この男が私に言う計画は、本当は誰に向けたものなのだろう。誰に言いたかった事なのだろう。その行きたい場所に、誰の代わりに連れていこうとしているのだろうか。 所詮それも、本気じゃない。 ただの"ごっこ"だ。 「絶対行こうな?」 「うん、いいよ。」 この会話に約束も何もない。 そういうやりとりをするだけの、満足感を得るための、"ごっこ"である。だから行きたいか行きたくないかなど関係ない。相手が求める答えを口に出すだけだ。 「・・・、なぁ、泊まる?」 店を出て、冷える夜道、男は女の腰を引き寄せながら耳元で聞いてきた。 「泊まらないよ?」 女は少し笑いながら答えた。 「あかん、連れて帰る。」 少し無理やり引っ張られるように、女は男の家に歩みを向けさせられる。2人の会話は弾むように楽しそうなもので、側から見たら完全に仲の良さそうなカップルである。 ガチャン。 男の家の扉が開けられた。キツメのタバコの臭いがする。男の匂い。 あぁ、今日も顎が痛くなるのだろうな。 女はそう思いながら、玄関に足を踏み入れた。
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