小指

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「入れていい?」 男の甘える声は、女の防壁を簡単に崩して、全てを許してしまいたくなるが、即答の返事はしない。 くちゅ、くちゅ。 ちゅぱ。 オーナーは女の暗部を舐めた後、指で執拗に触りながら、胸に顔を埋め、手で胸を柔らかく包み、乳首に唇を当てた。 少し上からみるオーナーの長いまつ毛と、女の胸元に吸い付く男の姿に母性が反応して、優しく頭を撫でた。 「いいよ」 その言葉でオーナーは柔らかい微笑みを浮かべ、不慣れな手つきでゴムを袋から出して一物に付けようとした。女はその手を優しく包み、代わりにゴムを慣れた手つきでつけた。 「...ありがとう」 包み込むようなキス、そして、女の中に入るために、オーナーはゆっくりと忍び寄ってくるが、さっきまでの優しさとは裏腹に、強い力でねじ込んでくる。 「ぃやっ、、、!」 「嫌じゃないでしょ?」 深く、深く、奥にあたるように腰を押し付けてきては、何かを探るように引き抜く手前まで戻して、また奥に押し付けてくる。 「ここが気持ちいいの?」 男は2種類のSEXをして、またはどちらかにわかれる。 自分の思うがままに、横暴なSEXを好む男か、 相手を気持ちよくさせることに快楽を覚える男か。 オーナーは完全に後者であった。 しかし女は気づいていた。 彼が愛するのは目の前で淫乱な声を漏らす自分ではなく、昔愛した女の面影と、それの代わりになる儚い時間。 だから彼はあと1秒もすればこれを口にする。 「ぁぁ、すごく気持ちいい。」 そしてその後の1秒でこう呟く。 「まだ繋がってたい、けど、もうそろそろ限界。」 パシパシパシ パシパシパシ 早めに腰を振り出し、顎が自然に上を向く。 女は腰に脚を絡めて、合図をする。 それをオーナーは読み取り、興奮して、そして果てる。 そして最後の1秒でこう漏らすのだ。 「ごめん、ごめんね、みつきちゃん。」 風鈴の音がする。 女は窓のほうを見上げた。 2人の人間が、大の大人が、裸で抱き合い、床の上でSEXをして、慰めでもなんでもないもののはずが、どちらかの意思でただの動物的行動になってしまう。 ここに愛はない。 風鈴が女にそう話しかけるように、涼しい音を鳴らした。 窓から見える外の世界には、蒼空が、広がっている。
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