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「お父さんと、もう会ってくれないの?」
青年の、垂れた首筋からは緊張の色が見えた。
女は足が止まった。
子どもは勘がいい。それが取り柄のように、大人が思っている以上に全てを把握している。
感情、思考、彼らは一秒刻みで自然に学習をする。
そして、自分の行動や言動が時には抑えるべきものなのだと、我慢をする。
それは、身近な大人に気に入られるためか、愛されたいからか、それとも、愛しているからか。
でも、女は知ってしまっていた。
彼が痺れを切らして、この質問をいつかはしてくることを、数週間前に気づいていた。
自分のお父さんと、知らない女が関係を持っていることを明確にするのが、彼の意図ではない。
少し前にいる青年の背中は、成長盛りにも関わらず、やけに細く、そして、少し長い髪の毛は、とても綺麗だった。
二人の間に緊張が走った。
「君、お父さんに、何されてるの。」
青年は、ただ、黙っている。
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