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月時雨とクリームソーダカクテル
雨が降る午前零時のn丘を、ひとりの青年が、傘もささずに、がむしゃらに駆けていく。青年は、とある洋館を目指していた。
洋館にたどり着くと、青年は迷うことなく、重々しい紺桔梗色の扉を開ける。
「いらっしゃいませ。雨が強くなってきましたね。まだまだ、やまないようですし……。さあさあ、どうぞ、こちらに」
やわらかな声に導かれ、青年はカウンター席に腰をかけ、店主に紺桔梗色の封筒を見せる。
「あの、父に二十歳を迎えたら、ここに来るように言われていて…」
「存じております。少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
店主は、注文もしていないのに、慣れた手つきで、なにかを作り始める。
少しして、店主は言う。
「二十歳のお誕生日おめでとう。お父さんは、きみの中学一年生の姿しか、知らないけれど、きっと立派になったんだろうね。お父さんから、ちょっとだけ大人な贈り物を、きみに」
店主は、「お父さまからの言伝です」と、先ほどの言葉が、僕が中学生になった年に天国へと旅立った父からのものである、と教えてくれた。
静かに僕の目の前に、グラスが置かれる。
「お待たせいたしました。“クリームソーダカクテル”です」
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