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養子に出て慣れない藩校での生活は新にとって未知の世界でしかなかった。
国や政について等、兎に角養子に入る前に通っていた私塾とは比べ物にならないほどの知識を藩校である明倫館で培う事が出来た。
初めの頃は戸惑うこともしばしばあったが、自身を迎えてくれた養父母の期待に応えたいと思う気持ちが追い風となって、みるまに藩校での成績も上がった。
やがてその弛まぬ努力は報われ年少組で一番を取るほどになる。
しかし其処で驕り高ぶるような新ではない。
この場で学ぶ者たちとは根本的な違いがあることを新は僅かにも忘れたことなど無かったからだ。
それは自身の生まれが『百姓』であるということ。
幾ら藩士の家へ養子に迎えられたとしても生まれだけはどうにもできない。
そういった事で百姓の身分から武家に養子に入るという、正に天と地がひっくり返ったような待遇を受けた新を快く思わない者も当然いた。
何かにつけて嫌がらせを受けたり陰口を言われる事も日常茶飯事で、初めの頃は成績などでやっかんでいるのが原因であると思っていた。
だがそれ以外にも要因があると気づかされたのは、家路に着く途中に通りかかる草叢へ数名の男たちに連れ込まれた時であった。
『おぬしが飯島家へ養子に入ったっちゅう『百姓』の倅か』
新の背後に回り口元を大きな掌で押さえ込んでいる男がそう言い放つ。
返答を求めているわけではないのは押さえ込んでいる力加減で理解出来た。
新たはもがく最中に自分を囲む人影を確認した。
──── 三人。
もしも相手が一人であったなら容易でなくともこの場から逃げる事が出来たかもしれない。
けれど実際はそれよりも多く、体力的にも太刀打ち出来そうにもなかった。
背後で口元を押さえ込んでいる男が他の二人に指示を出す。
頷いたかのように見えた者たちは新の着物に手を伸ばし、襟元を引き千切る勢いで左右に押し開きに掛かった。
みしみしと布の引き攣れる音を耳にするや、新はこれまで感じた事の無い恐怖に襲われ渾身の力でもって足掻き始めた。
『何をしちょる!さっさとやらんか!』
『大人しくせぇ、俺らは確かめに来ただけじゃ。おぬしが『噂どおり』のもんかどうか・・・』
──── 噂?
何の話かも分からぬままに、六本の腕が自身の体を這い回る。
一人の男の掌は汗ばみ、粘ついた感触が感じられあまりの嫌悪にぶるりと震えた。
それを快感と勘違いしたのか、男たちは息も荒く暴いた新の胸元に掌を次々と差し込んで、胸や脇腹、信じ難いが下腹部にまで指が降りてくる。
『噂に違わぬ美童じゃの。おぬしその美貌でまんまと飯島の家に入ることが出来たのだろう』
『なっ!?』
『おーおー。何としらを切る気か。この辺の者は皆知っていることじゃ。飯島の主人がおぬしの美貌に誑かされたとなぁ』
信じられぬ言葉に己が体が凍りつく。
これまでの努力も思いも一瞬にして切り刻まれたような感覚に一瞬息が出来なくなった。
暗い影が頭上を覆う中で、浮上するのは藩校で自身を見る冷たい視線。
まさかそれ以上に酷い言葉が彼らの間で交わされていたとは。
全身の力が抜け、だらりと腕が草叢の上に置かれると男たちは我先にと嬉々として新の体に群がった。
『何も知らぬ無垢な肌をしちょる様だが。おぬし相当な好色であろう。今にその本性を暴いてやるからな』
袴の上からは股間を揉みしだかれ、白く柔らかな首筋には男の舌が這う。
『──── やめてくれっ!』
辺りに立ち上る雑草の匂いと混じる汗や体臭に吐き気を覚える。
噎せ返る臭気に当てられ意識が遠のきそうになる新の体を無遠慮に這う男の指先がいよいよ袴の紐に伸びた時だった。
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