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第6話 賢人の正体
「私に付いてきてよ」
出会ったばかりの少女ライムにそう言われ、俺は彼女の後を付いていく。
しかしこのライムという少女、実に怪しい。
何故俺がそう思うか……まずは彼女一人であの大樹の上に居た事。
どう見ても十代前半のこの子がレッサーデーモンの支配下にあった森と村の近くを一人で出歩いているのは不自然だ。
この辺に住んでいるのならあの村以外考えられない、更に隣の村まではかなりの距離がある。
こんな見晴らしの良い所に居たらレッサーデーモンの使い魔が常に見張っていたのだから容易に見つかっていたはずだ。
それともう一つ、賢人の事を知っていた。
実は賢人の噂はそこまで有名な話ではない。
三百年生きてきた俺ですらつい最近情報を仕入れたばかりだった。
どうも情報の発祥がかなり古く、恐らく当時はかなりの話題だったのだが、いくら探しても見つからないものだから次第に噂すら語られなくなってしまい情報が風化していったのだ。
そんな古いおとぎ話級の情報を知り、今なお賢人が存在していてその元へと俺を案内するというのだからこの少女はただ者ではない事が分かるというもの。
「なあ、賢人ってどんな人物なんだ?」
特に意図せず俺はライムに質問したのだが、彼女は急に足を止めた。
「どうしたんだ?」
「賢人なんて呼ばないで……」
「いや、そうは言われても俺はその賢人を探してお前についてきたんだぜ? 何を今更……まさかこれから会いに行くのは別人なのか?」
「いいえ、でも賢き人なんて柄じゃないのよ彼女は……当時からそう呼ばれるのを嫌ってる」
彼女? 賢人ってのは女なのか? 初耳だな。
「そうなのか、じゃあ何て名前なんだ?」
「それは目的地に着いたら教えてあげる」
ライムは再び歩き始めた、俺も後を付いていく。
しばらく歩くと植物の蔦が密集していて通れない茂みの前に出た。
「行き止まりじゃないか、まさかここを進むのか?」
「ええ、そのまさかよ」
蔦の壁にライムが手を触れるとまるで生きているかのように蔦が左右に広がり、空いた空間に遥か奥まで続く通路が開けた。
「これは驚いた……ライム、君は魔法使いなのか?」
「蔦に呼び掛けただけよ、魔法とは少し違うわ」
何を言ってるんだライムは? 俺にはイマイチ理解できないのだが。
「さあもう少しよ」
「ああ……」
まだ掛かるのか……いい加減歩き疲れたぜ。
長い蔦の回廊を抜けると開けた場所に出た、辺り一面緑に囲まれた空間だ。
物音がしたので振り返ると蔦が元の状態へと戻り道を塞いでしまっていた。
閉じ込められた、これでは帰る事が出来ない。
「俺をこんな所へ連れ込んでどうしようっていうんだ? はっ……まさか、俺の身体が目当てなんじゃ……」
「何を馬鹿な事を言ってるの……ふざけるなら不死身じゃなくなる方法を教えてあげないわよ」
「冗談だよ、って教えてあげないってまるでお前が賢人みたいな口ぶりだな」
「みたいじゃなくてそうなのよ、私がその『賢人』ライムだって言ってるの」
「はっ……? お前が? 膨大な知識を修める賢人だって? 待て待て、そっちこそ冗談はやめてくれ、その若さでお前が賢人な訳が無いだろう」
さっきも言ったが賢人の噂は遥か昔から存在している、仮に賢人がまだ生きているとして、こんな年端もいかない少女の訳が無いのだ。
「あなた、三百年も生きている割には料簡が狭いわね……見た目はこんなだけど私はあなたより年上、千年以上生きてるんですけど?」
「何……だと……?」
ライムのいう事が本当だとすると彼女もまさか……。
「私は不老長寿の身……あなたとは違い殺されれば普通に死ぬわ」
「そうだったのか、数々の無礼をお許しください」
「ちょっと!! 何を今更畏まってるのよ気持ち悪い!! 次からそんな余所余所しい態度を私に向けたら絶交だからね!?」
「絶交って……いつから俺たちはそんなに親しい間柄になったんだ?」
「うっ……うるさいわね!!」
何だか話しがおかしな方向へ向かっているような……。
「と・に・か・く・あなたは今の不死身の状態から元の人間の身体に戻りたいのでしょう? その方法を教えることは私としてもやぶさかでは無いわよ」
「そうか!! じゃあ早速教えてくれないか!?」
おおっ、こんなに早く不死が解けるなんて思いもしなかったな。
短期間とはいえ結構苦労したが、これで報われるというもの。
「但しいくつか条件があるわ」
「まさか金か?」
「違うわよ、これから半年の間に私が出すいくつかの試練を乗り越えてもらいたいの」
「クエストの依頼か……いいぜ、対価も無しに願いを叶えてもらっちゃ俺としても後ろめたいからな」
むしろ望むところよ、伊達に冒険家を名乗っていないぜ。
「それじゃもう一つの条件を言うわね」
「おう、ドンと来い」
「その半年の間あなたは五回以上死んでは駄目よ」
「うん? それはどういうことだ?」
何だ何だ? 少し不穏な方に話しが動いていないか?
「私があなたに突きつける試練はどれもSランク冒険者が裸足で逃げだす程の高難易度ミッションよ、それでもあなたにはこの試練に挑む気はあるのかしら? 無理と判断するのならこの話は無かったことになるけど……そうそう、村での戦闘を見たところあなたはBランクの下くらいの実力しかないと判断したわ、あなたには到底無理ね」
「酷い言われようだな、確かに手も足も出なかったけどよ……」
超高難易度ミッションに死亡回数の制限……これは確かに一筋縄ではいかなそうだな。
「一つ聞きたい、失敗した場合はどうなるんだ?」
「未来永劫あなたは不死身のままね……でもそれは今の状態が続くだけであって、あなたには何のデメリットもないと思うのだけれど」
「そうだな、いいぜその条件を飲もうじゃないか」
「分かったわ」
そもそもこの申し出を受けないという選択肢は俺にはない、何のためにここまで来たと思っているんだ。
この千載一遇のチャンスを逃して堪るか。
しかしこれから始まる地獄はすぐに俺の心をぽっきりと折ってしまう程過酷な物だとはこの時の俺は想像もしていなかった。
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