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ふっという吐息は、ただの吐息か笑ったのか。
ゆっくりと上体を起こしていく里見は背が高い。
その顔が見られるまでに生じたタイムラグは、表情の変化に影響したのか否か、興じた雰囲気があった。
その間に、琴子は何を云われたのか、すっかり飛んでしまう。
里見のほうが口を開くのが早かった。
「距離を縮めてみたけど」
里見はまるで軟派な男に変化(へんげ)している。
把握するのに少し戸惑った琴子は、会議室での会話を思いだしてその意味を理解すると目を見開いた。
「……そういう意味じゃないことはわかってますよね? それに、冗談にするには無理があります」
「いや、けっこう本気で云ってる」
「本気って……」
里見の『けっこう』という言葉をどんなふうに受けとめればいいのだろう。
そんな戸惑いに陥っていることに自力で気づき、その戸惑いを払拭するべくすぐさま琴子は反撃に移った。
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