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地上二十九階建ての北斗(ほくと)ビルのなか、二十七階から眺める景色は広々として見え、空を飛べそうな自由が実感できる。 伊伏琴子(いぶしことこ)にとって、会議室としてあるこの角部屋は、ごくシンプルだけれどどこよりもお気に入りの場所だ。 琴子が所属するデータ管理部にも一面だけ窓はあるが、あいにくと琴子個人の持ち場は窓から離れたところにあって、外を眺めるという息抜きには恵まれていない。 もっとも、この会議室から見たところで、それを絶景というには少し違う。 ビジネス街のなか、近辺には同じくらいの高さのビルが数多くあって、そのなかには緑色の映えた憩いの場所などもある。 たとえ、眼下に広大な目の保養地があったとしても、それらに意味はなく、何が見えようと琴子はどうだっていい。 意味があるのは、もしも空を飛べたときにさえぎるものがなく、だだっ広いこと。 そう思うようになったのは、ここに呼びだされるようになった最近のことだ。
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