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今日は特にすこぶるいい天気で、暑くも寒くもない空調の効いた室内に、感じるはずのない暖かさを感じる。 梅雨というワンステップを踏まないと夏には向かえない。 その一段階前の五月、ふとその暖かさとは異質の熱を帯びた。 右の頬が火照る。 琴子は無自覚にその原因を求めて、外から室内へと目を転じた。 トントンと指先でテーブルを叩く音、ノートパソコンの画面をタップする音、椅子の背にもたれて腕を組んでノートパソコンの画面を眺める者、テーブルに肘をつき、こめかみを指先で支えて眉間にしわを寄せる者など、ドーナツ型のテーブルを囲む者は様々に吟味していた。 そのなかでただ一人、議題を提供した本人は飄々(ひょうひょう)として余裕たっぷりだ。 あろうことか、その眼差しは琴子を射止めている。 不届き者。 “いまの”里見道仁(さとみみちひと)にはその言葉がぴったり合う。
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