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何を云っても突っかかってくる梓沙の言葉を無視して、壮輔は少しためらったのち、意を決した様子で訊ねた。 問うというよりは確かめているみたいだ。 琴子はやはりインターホン越しに聞こえていたのだと思う一方で、ふともうひとつの秘密があることにも気づいた。 犬飼との関係だ。 いや、犬飼が自分の不貞を曝露するはずはない。 萎(シボ)みかけていた希望はまた芽吹き始めたけれど、梓沙が自暴自棄になって打ち明ける可能性もある。 繋がりは途絶えていないけれど、プラトニックな関係にすぎない。 琴子ははらはらして梓沙の横顔を見守った。 「なんのこと? 壮輔に話していないことなんていっぱいあるよ。二十五年、生きているうちのたった半年しか一緒にいないんだから」 梓沙はどこまで考えて言葉にしているのだろう。 琴子は案じながら壮輔に目を向けた。
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