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「1億、なんて……」
そんな金、あるわけない。
レアードだって分かっているはずだ。
3か月前、バーライト家が多額の借金を負わされたことを。
言葉を失って、ミディの身体を呆然と見つめた。
息は、かすかにしている。
まだ熱も感じる。
でも、今、助けなければ……彼は二度と……。
「……君が、払えばイイ」
「え?」
回らない頭を、必死にぐるぐると動かしていると、そうレアードは言った。
たしかに、これ以上の借金をバーライト家に負わせることはできない。
ミディだって、今となってはただレアードに雇われているだけの研究員にすぎないのだ。
なら、誰がこの大金を払うのか。
ミディにはこれからも植物や薬品の研究を続けてほしい。
そのためには……。
「俺が、払う……?」
「エルダムくんが本当にミディくんを助けたいなら、君が身体で払っていけばいいんだヨ」
もはや、こんなの選択肢ではない。
「わかりました。ミディ様が本当に助かるなら、お受けします」
必死の決断だった。
俺の答えを聞いたレアードは「交渉成立だネ」と笑って、こちらへ近づいてくる。
「結構傷も深いし、2錠くらい飲ませておこうか」
茶色い小瓶から取り出した2粒の薬を、ミディの口へ押し込み、机の上においてあったペットボトルのキャップを外した。
無理矢理ではあるが、ペットボトルの水で錠剤を流し込んでいく。
効能を詳しく知らない俺は、この判断が適切だったのかわからないが、もうこのあとはレアードに任せるしかない。
「向こうの治療室へミディくんを運んで」
治療となった途端、声のトーンが真剣になり目つきが変わる。
普段のちゃらんぽらんな雰囲気からは想像できない、別の顔があるのだ。
それからレアードの指示に従い、処置を手伝って。
その後、施設内の安全を確認し、施設の緊急警報を解いたのだった。
なぜこんな事態になったのか。
事の発端は、ミディを襲ったカマキリのようだ。
もともとはハウスに生息するカマキリが、ドームに姿を現して急に人を襲いだしたらしい。
カマキリは暴走した様子で研究施設内を徘徊し、研究室でミディや他の研究員をも襲おうとした。
パニック状態の中、ミディはみんなを逃がし、そしてカマキリに立ち向かって……あの大怪我を負ったのだ。
レアードによる応急処置の後、医療班が駆けつけて、レアードと共にミディの怪我を縫う手術が施された。
4時間か5時間はかかったと記憶している。
その間、俺はただただ祈るように手を組み、報告を待つのみであった。
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