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あてもなく、街の中を彷徨う。
ふと、前方にぼくと同じ種族の狐がいて、こちらを見ていることに気付いた。体は少し痩せ気味だが毛並みは美しい。匂いからして、メスだ。発情期だったら交尾に持ち込んでいるところだ。
"あなたも、なのね"
"!"
驚いた。それは間違いなく言葉だった。だけど音声ではない。ぼくの頭の中に直接響いてくる。
"君は……何者だ?"
頭の中で問いかける。なぜかそれで十分伝わる気がした。
"わたしもあなたと同じ。化かすことができなくて……家族から避けられて、一人、いや一匹になっちゃった"
……。
そうか。彼女もぼくと同じ、はみ出し者なのか……
"なるほど。お互い、化け物の中でバケモノになっちまったら、のけ者か……"
"それ、なんだか出来損ないのラップのリリックみたいね"
そう伝えて、彼女は右の前足を浮かせ、DJよろしくターンテーブルをスクラッチする仕草をしてみせる。
思わずぼくは笑う。どうやら彼女も人間の文化にかなり造詣が深いらしい。彼女も笑った。
ああ……
これが、共感って奴か……いや、テレパシーというべきかもしれんが……
家族の中で、ぼくが今までずっと求めていたのに、ついぞ得られなかったもの……
それがようやく手に入れられたのだ。たったこれだけのことなのに、こんなに気分がよくなるものだったとは……人間たちが SNS の中で「いいね!」を欲しがる理由が、よくわかった気がする。
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