化け物の中のバケモノ

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 あてもなく、街の中を彷徨(さまよ)う。  ふと、前方にぼくと同じ種族の狐がいて、こちらを見ていることに気付いた。体は少し痩せ気味だが毛並みは美しい。匂いからして、メスだ。発情期だったら交尾に持ち込んでいるところだ。  "あなたも、なのね"  "!"  驚いた。それは間違いなく言葉だった。だけど音声ではない。ぼくの頭の中に直接響いてくる。  "君は……何者だ?"  頭の中で問いかける。なぜかそれで十分伝わる気がした。  "わたしもあなたと同じ。化かすことができなくて……家族から避けられて、一人、いや一匹になっちゃった"  ……。  そうか。彼女もぼくと同じ、はみ出し者なのか……  "なるほど。お互い、化け物の中でバケモノになっちまったら、のけ者か……"  "それ、なんだか出来損ないのラップのリリックみたいね"  そう伝えて、彼女は右の前足を浮かせ、DJよろしくターンテーブルをスクラッチする仕草をしてみせる。  思わずぼくは笑う。どうやら彼女も人間の文化にかなり造詣が深いらしい。彼女も笑った。  ああ……  これが、共感(エンパシー)って奴か……いや、テレパシーというべきかもしれんが……  家族の中で、ぼくが今までずっと求めていたのに、ついぞ得られなかったもの……  それがようやく手に入れられたのだ。たったこれだけのことなのに、こんなに気分がよくなるものだったとは……人間たちが SNS の中で「いいね!」を欲しがる理由が、よくわかった気がする。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加