第14話 再検査

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第14話 再検査

 17時に会社を出て再検査へ行こうとしていたが、仕事が片付かず、17時20分になってしまった。ズルズルしてしまうと病院の受付が終了してしまうので、仕事は割り切って退社した。  病院は徒歩数分で、受付に「健康診断で再検査になりました」と言って結果報告書を手渡した。診察カードは持っていなかったが保険証を持っていたので、受け付けてもらえた。  受付前の長椅子には待っている人が4名いた。もっと混雑していると思っていたので少し気が楽になった。  数分後、入口から帽子を深くかぶった細身の中年女性が入ってきた。マスクで顔はほとんど見えなかった。受付で「風邪の症状です」と咳き込みながら弱々しい声で話していた。受付担当は「他の病院に行きましたか?どんな薬を飲んでいますか?」と早口で質問攻めをされていて、見るからに「来て欲しくないオーラ」が漂っていた。  女性は何度も咳き込んでいた。長椅子で体温を測らされていた。周りの人もその女性を気にしている様子で「うつったら嫌だなあ」という心の声が聞こえてきた。  気を紛らわすために再検査のシミュレーションを考えることにした。「まずは診察で医師との会話。そうだ、聴診器を胸にあてられるから、カーディガンを脱いでおかないと」とイメージトレーニングをして、カーディガンのボタンを外した。採血もしそうだから、左手のシャツのボタンも外しておくことにした。15分くらい待って「武藤さん、1番の診察室にお入りください」のアナウンスが聞こえた。早く待合コーナーを脱出したかったため、足早に診察室へ向かった。  診察室の中にはメガネの女性医師が座っていた。受付で渡した『健康診断結果報告書』を開いて確認していた。  「腫瘍マーカーのところですよね。数値は基準内みたいですが」と話しかけられたので、「そのページをめくって、その他の欄に別の明細あります」と説明した。  「なるほど、このSCCですね。数値は高いですね。うーん、でも、健康診断で内視鏡検査もやってるんですよね。CT検査も。うーん。初めてですかね、検査したの」と、つぶやきながら悩まれていた。  「通常のケースだと、再検査では内視鏡で喉をみるのが一般的なのですが、先日の検査でも異常は見つかってないですし。CT検査でも」  「あと、健診は約2週間前で、まだちょっとしか経過してないですよね。採血して比較しても差がでないような。たまに高い数値になる方もいるんですよね。どうしましょうか。ここではこれ以上の検査はできないので、専門病院を紹介するので、そこで診てもらうことになりますが」と説明があり、3案を提示された。  案1:専門病院へいく(紹介状を書く)  案2:とりあえず採血する(結果は数日後に再通院)  案3:少し間を開けて、来月に採血する  悩むほど検討材料もなく、医師の説明も緊急性があるようには思えなかったので、案3の「来月に採血」を選択した。  「来月、都合のいいときに来てもらって、受付に「採決に来ました」と言ってもらえればいいです。結果は数日後に通院してもらって、となります」という指示を受けて、診察を終えた。  待合コーナーに戻ると、先ほどまで座っていた場所しか空いてなかったので、同じところに座った。例の女性はまだ2つ隣に下を向いて座っていた。新型コロナウィルス流行の前に再検査を終わらせようと、急いで来たのに完全に当てが外れてしまった。検査はしないし、病気をもらってしまうリスクが高まってしまった。診察を受ける前のドキドキ感が、モヤモヤ感に変わってしまった。  ネットで「腫瘍マーカー SCC」で検索して調べてみた。がんの記述だけでなく「がん以外の疾患ではアトピー性皮膚炎、気管支炎、結核、腎不全、人工透析患者などでも高値を示すことがあります」と書いてあった。  「アトピー性皮膚炎、これだー!」と頭の中で叫び、モヤモヤが晴れていった。子供のころからアトピーを患っているので、きっとこれが原因でSCCの値が高くなったんだと思う。「いきなり専門病院に行かなくて良かった。来月の採血はあまり行きたくないなあ」と、ブツブツつぶやきはじめた。  「そういえば、他の健診項目って、結局、どうだったんだろう?当日、あれだけ色々なことがあったのに、結果をちゃんと見てないや」と冷静に考え始めた。
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