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第3話 なかなか書けない問診票
健診の予約はいつも朝一番の時間帯にしている。健診のお知らせに「前日は21時以降は絶食、0時以降は絶飲食」の指示があるため、早く終わらせて昼食を取れるようにしている。
今回の受付時間は「8時40分」。予約確認票には「受付時間にご来院下さい。受付時間よりも早く来院された場合、受付時間までお待ちいただく場合がございますのであらかじめご了承ください」という回りくどい記述があった。できれば1番に到着して検査の待ち時間を短くしたかったが、受付10分前の8時30分到着で向かうことにした。
受付に着くと、すでに先着が4名もいて5番手スタートと出遅れてしまった。先着メンバーの中には、うちの会社の人が2名いた。気軽に話しかけられない役員と、他部署のメンバーで、気まずい雰囲気が漂っていた。
受付で、胃カメラとMRIの同意書と検便キットを渡し、代わりに、問診票を書くように指示された。隣で問診票と闘っている先着メンバーをチラ見した。5番手から順位を上げようとスピードアップを試みるが、簡単には追い抜くことができなさそうだった。
問診票は5枚の用紙で設問が多く、記入するのに毎回、手こずってしまう。いつも悩むのが、過去の病歴欄。60個くらい病名が印字されていて、チェックマークを付けるのは簡単だが、「病気になった年齢」の欄は悩んでしまう。「アトピー性皮膚炎は中学生のときだから、いくつだっけ。尿路結石になったのは厄年の時だから、えーっと。白内障は今年だから」とブツブツ言いながら記入していく。
そして毎回、「過去の病歴は前回記録してるんだから、先に印字しておいてほしい。名前や住所は印字されてるからできるでしょ」「仮に去年と違う年齢を書いたらどうなるんだろう」「直近、1年の病歴だけ書かせればいいんだ」「去年の健診結果を持ってくればよかった」といったモヤモヤや改善策を考えてしまう。気付きや妄想は、システムエンジニアの職業病なのかもしれない。
問診票には飲酒に関する質問が複数回、出てくる。個別の検査用の問診票なんだと思うが、イラっとしてしまう。選択肢の表現が若干異なっている。心の中で「同じこと聞くなよ、聞くなら同じ選択肢にしてよ」と、ツッコミを入れている。こんなことをしていると、結局、問診票レースは、順番通りになってしまった。
問診票を受付に提出し、更衣室で着替えを行った。半袖短パンだけでは寒いので、カーディガンを羽織ることにした。待ち時間用にスマホか文庫を持っていこうと思った。「MRIやCT検査の磁場でスマホが壊れちゃうかも」といった不安や、「今回こそは早く終わるはず」という根拠のない願望を優先し、暇つぶしグッズは手に取らなかった。
この勝負の行方はいかに?
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