第6話 あやふやな体型計測

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第6話 あやふやな体型計測

 視力検査に続いて、『身長と体重測定』へ誘導された。  「スリッパを脱いで、ここに立ってください」  「あごを引いて前を向いてください。頭は押されてないですか?」と言われている間に、かすかに体を伸ばしていた。ちょっとでも背が高くなるように、子供のころからの癖になってしまっている。    「次は体重測定です。上着とポッケのものがあれば、この籠に入れてください」と指示があり、ポケットの中の予備のメガネとマスクを取り出した。カーディガンを脱ごうとしたら、また、ボタンに手間取ってしまった。すぐ脱ぐことになるのに、閉じてしまう。靴下も脱ぎたい気持ちになったが、カーディガンでもたついていたため、そのまま体重計に乗った。  看護師さんは記録票にえんぴつで手書きをして、用紙ごと差し出し「前回と大幅に変わってませんか?」と言ってきた。特定保健指導をさぼってしまい、増量の自覚があったため、記録票を見ずに小さな声で「はい」と言ってしまった。とても悪いことをしたような感覚に陥っていた。    平日はお昼休みに会社の外に出て30分の徒歩で気分転換したり、通勤帰りは1駅手前で下車して歩いて帰ったりしていた。土日は夕食後、60分のウォーキングをやっていたが、効果が見られず、冬になると寒いという理由に負けてしまっている。病気になると健康の大切さがわかるのに、異常がないと不摂生をしてしまう。困った大人だと思う。    次は『検尿』で紙コップを手渡され「この青いラインまでお願いします。トイレの中に小窓があるので、そこに置いてください」と看護師さんに言われた。ここまで検尿していなかったことに気づいていなかった。昨晩から水分も取ってなかったので、尿意が感じられず、出るか不安だったが、トイレに入ると、すぐにミッションを成功させることができた。  いつも小窓の奥を想像してしまう。「取り間違えのミスしないのかなあ~」「仕事とはいえ、つらいだろうなあ~」と思ってしまう。  トイレから出て、廊下の長椅子に座って、次の検査待ちとなった。急にやることがなくなり、壁のポスターを見たり、行き来する看護師さんを眺めたり、ぼーっとしていた。隣で待っているメガネ女子はストールを羽織り文庫本を読んでいた。その姿がカッコよく見え、無性に本が欲しくなってしまった。  目の前の部屋はMRI室で、道路工事のような騒音がずっと鳴り響いている。「あの音は一体何なんだろうか」「次の検査はなんだろう」と考えながら待っていた。やることもなかったので、背筋をピンと伸ばして、座禅修行を勝手に始めていた。
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