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第7話 ぬくいMRI
道路工事の騒音が止まり、初老の男性が部屋から出てきた。出ると同時に「武藤さん!武藤平蔵さん!」と大きな声で呼ばれた。次は『MRI検査』になった。
部屋に入ると白い大きなドーナツ型の機械に寝そべるベット(検査寝台)があった。自主的にカーディガンを脱ぎ、マスクとメガネをカゴに入れた。
担当技師は「ここに頭を置いて仰向きで横になってください」と言いながら、頭の位置にあった薄い紙を取り替えていた。ベットの上にも同じ素材の薄い紙があったが、取り替えなかった。
検査寝台に寝そべると、前の人のぬくもりが残っていた。生暖かく、でも、初老の方の顔を思い出してしまった。もう少し間をあけて欲しかった。
技師さんはそんなことはお構い無しに、決められた手順で進めていった。「初めてではないので大丈夫ですね」と声をかけて、ヘッドホンを装着し、頭を固定した。
「15分くらいです。頭を動かすと画像が撮れなくなるので動かさないでください」と注意事項があった。ヘッドホンつける前に説明して欲しかったと思ったが、素直に軽くうなづいた。
すぐにスタートした。ピー、カンカン、ドンドンの騒音が鳴り響いた。目を開けると、プラスチックのカバーが覆いかぶさっていて何も見えなかった。閉所恐怖症だったら不安になると思った。
ふと、MRIの原理を妄想し始めた。磁気共鳴装置という名前から、磁力を使っていることはわかるが、なぜ音が出るのか、さっぱり見当もつかなかった。
家で調べてみた。
「私たちの体(組織と臓器)には多くの水分(H2O)が含まれています。MRI装置は、水を構成する 水素原子に磁石と電波を使って水素原子の位置を解析し、撮像した体の部分の画像を作ります。MRIの特徴として、撮影中は大きな音を伴います。これは、装置内部の磁石のスイッチが高速に切り替わるために装置が振動しカンカン・ビービーといった音が出るのです。」
ネット検索ですぐに調べられる。水素の位置を探していたとは意外だった。最近は音の小さなタイプもあるらしい。
妄想することもなくなり、眠くなり始めた。「居眠りして頭が動いたら画像が撮れない」「ここて寝たら胃カメラの時に眠れなくなってしまう」と考え、睡魔と戦うことにした。
ピー、カンカン、ドンドンの音は規則的でもあり、不規則にもなる。子供がこのMRI検査した時は睡眠薬で寝てから検査したことを思い出した。寝ないと始まらないので1日がかりの検査だった。この騒音の中、寝てられたのだろうか。
やっと騒音が止まり、検査寝台が足元の方向へ移動した。身体にかけた毛布をとり、ヘッドホンを外した。
「お疲れ様です。ゆっくりと立ち上がってください」と言われ、カーディガンを羽織った。
部屋を出ると、後ろから「鈴木さん」と次の人を呼んでいた。
「その苗字でフルネーム言わないの?」「そのベットまだ温いです」とは言えなかった。
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