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第8話 息止めCT検査
『CT検査』の部屋から呼ばれた。放射線技師は30歳半ばの男性だった。今日このクリニックで見かける医師や看護師はほとんどが女性で、唯一の男性だった。
部屋に入ると「おはようございま〜す」と陽気な軽い声をかけられた。半袖の白衣が小躍りしているように見えた。女性の職場だから所作が可愛らしくなるのかもしれない。
最初は部屋の奥にある『胸部X線検査(レントゲン検査)』に案内された。アゴを台に乗せ、両手で台を抱え込む姿勢をとらされた。日常の姿勢でアゴを乗せることはなく、感覚的に少し違和感がある。技師は「そのままの姿勢で動かないでください。大きく息を吸って〜。はい、止めてください」と言いながら放射線を遮る小部屋へ入っていった。
すぐに「パシャリ」とシャッター音が響き「息を楽にしてください。終了です」の声がかかった。
X線による被ばくの話は原発事故のニュースでよく取り上げられるが、直感的にわかりにくい。健康診断のX線検査は0.5ミリシーベルト。飛行機で東京からニューヨークへ行くときに浴びる宇宙からの放射線は、0.2ミリシーベルト。地上で日常的に生活していても年間2ミリシーベルト程度の被ばくをしている。「だから安全です」と言われても、体温のように簡単に測れるものもないし、自覚症状もないので、ピンとこない話だと思ってしまう。単位も、ミリ・マイクロ・ナノをごちゃ混ぜに使ったりするので、計算が苦手な私はすぐに思考停止している。
次は『胸・腰部CT検査』で、部屋の手前にあるドーナツ型のCTへ案内された。機械の形はMRIと似ている。ドーナツの厚みが違うくらいかもしれない。MRIが薄いドーナツ、CTが厚いドーナツ。「チョコとプレーンのように色を変えるとわかりやすい」と思ってしまった。
検査寝台に寝そべった。MRI検査の時のような前の人の温もりは感じなく、思わず、にやけてしまった。
腰の部分を固定され、両腕は頭の上まであげてバンザイポーズのような姿勢になった。技師から「息止めの合図があります。少し長いかもしれませんが、頑張ってください。体は動かさないでください」と説明があった。
検査が始まり、寝台がドーナツの輪の中に入っていった。「息を止めてください」と無機質な音声が聞こえてきた。ゆっくりとドーナツの輪に入っていく。ドーナツの向こう側にいき「息を楽にしてください」と解放指示が出た。
数えていなかったが、15秒くらいの息止めで、長く感じた。
数秒後、寝台が足元の方向へ動き始め「息を止めてください」の合図があった。体を動かさないよう意識していたら、先の心電図検査のときのポロリ事件を思い出してしまった。無駄に緊張しはじめてしまった。胴体の輪切りの写真がブレてなければいいのだが。
息止め大会は3回で終了した。検査が終わり、大きく深呼吸して、心拍数を正常に戻した。
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