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「あ、シミ・・・」
Aがそう呟くと、BはAの隣で少しだけもぞもぞと動いた。まだ起きる時間には少し早いのに、Bを起こしてしまったかもしれないと少しだけバツが悪くなったAは、向こうを向いているBの背中に抱きついてまた目を閉じた。
でもAの頭にはシミがすっかりこびりついてしまっていた。目を瞑っても、脳裏どころか瞼に浮かび上がるそのシミは、もはやAにとっては無視できない重大な問題になっていた。
(気になる・・・気になる・・・なにあれ・・・気になる・・・)
落ち着こうとすればするほど、動揺が激しくなることは分かっていても、もうAには自分を制御することはできなかった。いつもならその匂いと感触に、安心感を抱くはずのBの体は、この時ばかりはどうも効き目が弱く感じられた。そこでAは、なんとしても落ち着こうと、必死にBの背中を抱きしめ、匂いをかぎ続けた。効果音を出すとしたらそれは「むぎゅぅ」や「くんくん」の様なかわいいものではなく、「ガチッ!」「フンフン!フフフフフン!ンフンフン!!」みたいな感じだ。
しかし、それでもAの心は乱れたままだった。Aの心はすっかりそのシミに覆われてしまっていた。
(ああ・・ああ・・・・もうどうして・・・気になる・・・ああああ・・・・)
Aの鼓動は速まり、呼吸は荒れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ああ、もう、、、」
Aはもう声を漏らすのを我慢できなかった。胸が苦しく身体は汗ばんだ。気にしてはいけないという小さな思いは、静かな朝のベッドの上で無限に広がり続けた。
「どうしたのぉ?だいじょうぶ?」
隣で苦しむAの様子に、眠っていたBも目を覚ました。BはAを見て驚き、落ち着かせようと背中を擦った。Aはしばらくつらそうだったが、次第に落ち着きを取り戻していった。
「はぁ、はぁ、うん、大丈夫。ありがとう」
Aは自分の方を見ているBの胸の中で、そっと目を閉じた。その感触と匂いにAはすっかり安心感を取り戻していた。
少ししてBは、温かいものを用意するねと言ってベッドから抜け出した。Bの優しさに心を暖かくしたAに、Bはキッチンでいれてきたミルクティーを渡した。大きめのマグカップに口をつけて少しだけ飲んだAに安心して、Bはまたベッドに入った。
「それを飲んだら着替えてね。そろそろ帰ってきちゃうから」
マグカップの縁から一滴、ミルクティーがベッドに溢れた。白地のシーツに、あっという間にシミが広がった。
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