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言い伝え
その『玉』の存在に気がついたのは、この町役場に赴任してから半年も経ってからだった。
私は、大学を卒業し、都心部の市役所に就職が決まった……まではよかったものの、いきなり市の端っこ、小さな町役場で働くことになった。
研修を兼ねて、とは言われたものの、ただ人手が足りないだけだったのだろう。同期の中でも特に優秀そうな数名を残し、ほとんどの新人は市内のあちこちに散らばっていった。
「気になるかい?」
『玉』を見つめていると町長に声をかけられた。
「宝石……ですか?」
その『玉』は、町役場のロビーの片隅にケースに入れられ、ひっそりと存在していた。それこそ、仕事を覚えるのに慌ただしく動き回っていた私が気がつかないほどにひっそりと。
ビー玉よりは少し大きく、青みがかった緑色をしていて、表面はつるつるとして光を反射していた。
「君は、この町の言い伝えを聞いたことがあるかい?」
私の質問には答えず、町長は質問を投げかけてきた。
「言い伝え……ですか?」
一応、地元ではあるものの、この町の名前すら『なんか聞いたことがある』程度だった私がそんなもの知るわけがなかった。
「この町が、もっと小さな村だったころからある言い伝えだ」
町長は話しだした。
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