1人が本棚に入れています
本棚に追加
***
母親は、自宅でピアノ教室を開いた。そして、当然大事な一人息子にもピアノを教えた。
ピアニストとして成功するという自分の叶わなかった夢を息子に背負わせた。
ここまではよくある話だ。
彼はピアノが大好きだった。才能もあり、どんどん上達した。
そして彼は、ピアノと同じくらい母親のことも好きだった。幼い子にとって、母親はすべてだ。彼は母親の喜ぶ顔が見たくて、どんどん練習した。
そう、寝食を忘れるほどに……。
彼はいつしか小学生になり、数々のコンクールで賞をとれるほどの実力をつけていた。
ある日、いつものようにピアノのレッスンをしていると、彼の指先が緑色に変色していることに気がついた。
母親は慌てて大きな病院へ連れていき、あらゆる検査を行ったが、原因はわからなかった。というより、指が緑色になっているということ以外、異常がなかったのだ。
身体に異常がないならと、母親は今までと変わらず、いや、今まで以上にピアノのレッスンに力を入れた。緑色の変色は徐々に広がっていった。
そして、仕事で忙しく、家を空けがちだった父親がそれに気がついた。
『のめり込みすぎると、バケモノになる』
息子の姿を見て、父親の頭にはその言い伝えがすぐに浮かんだ。
最初のコメントを投稿しよう!