第12章 君が考えるほど、音楽は君を簡単には手放さない。

12/12
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
三月はもうだいぶ明るい時間帯も長くなってる時季だけど、それでもスタジオに着いた頃にはもう辺りは薄暗くなっていた。これから準備して、はまちくんが到着するまでにちゃんと間に合うのかな。 受付の人にP.S.-ccです、と声をかけて急ぎ足にスタジオの部屋に向かう。深く考えもせず勢いよくドアを開けた。 その途端、両側から腕が伸びてきてぐい、と身体をスタジオの中へと引きずり込まれた。 何が起きたのか理解できない。ショックで全身を強く殴られたみたいに何も考えられなかった。…どういうこと?これ。 わたしに対するサプライズ?…だとしても。 いくら何でも。たちが悪過ぎる、気が。 背後でがち、とドアが閉められた。両脇からがっしりとわたしを捕まえてる人たちが誰なのか確かめようとパニック気味に両側に顔を振り向ける。 …全然知らない男たち。別に、顔見知りのファンでもないし。 そいつらは何故かやたらと嬉しそうなにやにや笑いを浮かべて、わたしを舐めるように見つめていた。 「…なんだ、けっこ可愛いじゃん。これなら全然オッケーだよ。ガキっぽいとか地味だとかお前が散々言うから。正直期待してなかった分逆にラッキーかも」 もう一人もやけに浮き浮きした声を出す。…何か、これから楽しくてたまらないことでも始まるみたいに。 「近くで見ても肌綺麗で、美味しそうだなぁ。さ、これから二時間。ここなら絶対邪魔も入らないし、みんなでじっくり楽しもうか。…だいじょぶ、痛い目には遭わせないよ。ちゃんと気持ちよく満足させてあげるからさ。俺たちみんなで」 ぞわ、と首筋がおぞましく総毛立った。…何の話してるの?この人たち。 どういう、こと? 振り払おうとしてもがっちり固められた腕は振りほどけない。何とかして逃げなきゃ、と血の気の引いた顔で焦ってるわたしの前に海くんがゆっくりと進み出たのが視界に入る。 こいつ。 少しずつ事情が飲み込めてきた頭に、殺してやりたい、と凶暴な考えが浮かぶ。どうしてこんな男。うっかり信用してここまで来ちゃったんだろう。 落ち着いて他のメンバーの誰かにまず連絡をとって、確認すれば。こんなことにはならなかったのに…。 海くんは見たこともないような冷たい無表情な顔でわたしを見下ろして、妙にゆっくりとした口ぶりで静かに話しかけてきた。 「残念だったな。最後の最後に油断したってことで…。ま、深く考えるな。ここでお前の送別会をやってやろう、って計画したってだけだから。もちろん他の連中は誰も来ないよ」 嵌められた。 こんなの現実じゃないと思いたい。脳内でがんがんと鳴る音に紛れて、奴の気持ちの悪い猫撫で声が耳の中で反響する。 「大丈夫、ここでのことは俺たちだけの秘密にしてやるから。思いきり愉しんでいいんだぞ。…あいつらには知らせないでやるよ。お前がどんなに淫乱に、気持ちよく乱れてたか。なんてな」 《第7話に続く》
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!