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「大人しく渡せば何もしない」
男は右掌を広げて差し出した。
「渡すわけない、と言えば?」
カサドの問いに、男は差し出していた右手をそのまま左腰に持っていき鍔を握る。
「悪いが死んでもらう」
刀が素早く二人に向けられた。
「これは渡せない」
バケモノの涙をカサドに渡し、蔵人も刀を抜いた。
「ならば死ね。
月夜にのみ臨、乱れ飛べ藍刃」
無数の刃が蔵人を襲う。
「クッ……」
難なく避けてはいるが、いつもの蔵人なら反撃までしている。
「何を戸惑っている!」
カサドのゲキが飛ぶ。
本来プレイヤー同士の闘いはない。
「殺らなきゃ、殺られる。
せっかく手に入れたアイテムまで失うぞ!」
カサドの言葉に蔵人は覚悟を決める。
「わかったよ、殺ってやる!
カサド、こいつの弱点は」
「千里眼使うまでもねぇよ。
こいつはただの人間だ、頭、喉、心臓、全身が弱点だよ」
「何をゴチャゴチャ言っている!
月夜にのみ臨、乱れ飛べ藍刃」
再び刃が襲ってくるが、先程より軽やかに避け、
「狂えば罰、貫け雷刃」
低く構えた蔵人から繰り出された刀は、男の胸を貫いた。
「えっ……」
敵キャラ達を倒すいつもの感触とは違った。
男は激しく吐血し、
「こいつ……本当に殺しやがった……」
黒目と白目をギョロギョロさせる。
その時蔵人は気付いた。
自分の意識がずっとこのままゲームの中にある事、現実の世界へと全く戻らない事を。
「人殺し……人殺しーーー!」
大量の血を蔵人の顔へと吐きつけ、男はその場へと倒れ込んだ。
いつものキャラのように塵とらなって消える事はない。
現実の世界のニュースを思い出す。
『オンラインゲーム【ムーンナイトサバイバー】をプレイ中に不審死を遂げるという事件がまた発生しました。
今月に入って七件目です』
「俺が……人殺し?」
蔵人はこの世界に響き渡るくらいの声で喚き壊れた。
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