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赤ん坊の泣く声が死体だけしかないはずのその場に響く
「ウ……グッ……ゲホッ…待って、今助ける…よ」
少しでも動くと激痛が全身に走る
ぎこちない動きで体を起こす
傷は全て治っているが痛みはやまない
(ちょっと無理しすぎたか
でも…そんなの気にしてる暇はない)
ゆっくり声のする方へ歩く
死んだ妖精の腕の中で赤ん坊が泣いている
庇って死んだようだ
赤ん坊を抱き上げる
その温もりに触れると痛みが和らいだ気がした
「ごめんなさい……あなたの家族も……
皆守れなくて……本当にごめんなさい…」
赤ん坊の頬に雫が落ちる
「生き残った皆も……あなたも……絶対に守ってみせるから
もう………こんなこと絶対にさせないから
本当にごめんなさい…」
連合軍が殆ど全滅した
その報告は女神族達を震撼させた
更にその原因となった妖精がまだ生きているという事実まで発覚した
それにより、最高神は今後一切妖精族への手出しを禁じた
相手が中立を望むなら、
こちらから手を出さなければ、手出しはしないと言うのならば
これ以上戦力を失えば魔神族との戦闘が厳しくなる
最高神の真に危惧していることなど知らずに女神族達は言われるがまま従った
妖精族はエルニの圧倒的な力により、妖精族として生き残った
ドルイド族とは正反対の結末で聖戦を乗り切った
(結局…また守れなかった
ムエク……たった一人のアタシの…最後の仲間
傷つける奴らは全員許さない
誰だろうと……)
窓を開け夜風に当たる
ひんやりとした風が気持ちいい
目の前に一匹の黒い蝶がどこからともなく飛んでくる
スッと手を差し出すとその指先に静かに止まった
その目はまっすぐエルニの方を見据えているような気がした
「君は…アタシの事をどう思う?
何も守れなかったアタシの事を……
アタシだけ生きている事を……」
蝶は何も答えない
当たり前ではあるが少し落胆した
「ごめんなさい……君にこんな事言っても無駄なのに
引き止めちゃってごめんね」
そう言うと蝶は手から離れた
しかしその場から離れようとしない
エルニを見据える複眼にこもる感情はわからない
もう一度手に止まらせようと手を差し出すが、フッと手の届かないギリギリの距離まで離れる
しかし遠くに行こうとはしない
何故かどうしてもその蝶に触れなければ行けない気がした
手を伸ばせば伸ばすほど遠くへ、徐々に下へ下がっていくことも気にせず
(もう少し……もう少し…で)
「エルニ様!!?」
後ろから体を支えられてふと我にかえる
蝶の姿は消えてしまった
窓から体を半分以上乗り出しており、危うく地面へ真っ逆さまという状況だった
幻から現実へ、窓の外からティノゼの腕の中へ引き戻される
「エルニ様、どうしてこんなことを?
一体何が?」
「ティノゼ君……今、蝶が…」
虚ろな目で窓を見つめる
手を離せばまた窓の外に飛び出してしまいそうな危うさが漂っていた
「蝶?」
「何でも……ない」
そう言うと俯いてしまった
「何でもないわけがないでしょう?
もしかして、また父さんに何か言われたんですか?」
「何でもないって……言ってるでしょ」
俯いたまま小さく呟く
「エルニ様……」
「ねぇ…ティノゼ君…生きてて辛いって思ったことはある?
消えたいって…死にたいって強く願ったことは?」
「それは……どういう意味ですか…?」
「何でもないよ」
「何でもないって、さっきからそればっかり
私はあなたのことは心配なんですよ
いきなり窓から落ちかけたり、変な質問をしたり
何かあったのなら話してくれませんか?
話せば少しは冷静になれるのでは?」
「………ごめんなさい…今はできない」
「できないって、どうしてですか?」
「できないの……ごめんなさい
出ていって……一人にしてほしい
お願い……一人がいい…お願い」
「……わかりました…
ですか、さっきみたいなことは絶対にしないでくださいね」
「…うん……」
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