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護衛
(あんな奴で本当に商団が守れるのか?)
馬車の荷台で気怠げに景色を眺めるエルニ
その様子からはとてもやる気を感じられない
(商団長が任せたんだ、きっと凄腕の魔術師なんだろう)
急に馬車が止まる
「おい、どうし……ヒィ?!で、出たぞ!!」
茂みから巨大な白い狼が現れる
ギラギラと鋭い視線で商団を見つめる
この辺りをうろつく聖獣(既にただの獣と化した)だ
「おい、あんた!
奴が出たんだ、ボーッとしてないでなんとかしてくれ!!」
「もう終わった」
「へ?」
「あれ」
そこには首のない体だけが立っていた
「い…いつの間に……」
「さっさと行こうよ
日が暮れても知らないよ」
「は、はい!」
人間達は止めていた馬車を再発進させた
「人間の商団を守る?!
トレミル、冗談言わないでよ!」
「冗談などではありません
前に我らの商談を守った時の活躍があちらの国でも評価されたのです
もちろん、引き受けてくださいますよね?」
「何でアタシが人間を守らなきゃいけないの?
トレミルだって知ってるでしょ?
アタシがどれほど人間を憎んでいるかを」
「えぇ、知っていますよ
しかし我々ドルイドはそうやって人間の機嫌を取って今まで生き残ってきました
私だって人間は憎いです
ですが、長として感情を押し殺し、同胞達が生きるために尽くさなければならないのです
同じ一族の長のエルニ様ならわかっていただけるかと
それとも、同胞がたった一人ならもう守らなくてもいいと?」
「そこまで言ってない」
「では、引き受けてくださいますか?」
「そうだとしても……」
「今、ムエクさんに監視役をつけています
あなたがこちらの要求を飲めないというのであれば、相応の処置を取らせていただきます」
「………わかった……守ればいいんでしょ
絶対にムエクに手を出さないでよ」
(アタシにもっと力があれば……
森も…仲間も失わなかった
人間を守らないといけないこんな状況にだって…)
馬車の荷台で揺られながらそんな事を考える
「なぁ、あんた
さっきのは一体どうやったんだ?」
「君たちに教えたって意味がないでしょ」
「そりゃそうだけどよ
一体どういった魔術でやったのかくらい教えてくれよ」
怪訝そうな顔で一瞥して景色に向き直る
「やめとけ、商団長が言ってたんだ
そいつは極度の人嫌いだってな」
「なんだ、そうだったのかよ
すまねぇ、悪いことしちまったな
ただ知らなかったんだ、許してくれ」
「別に気にしてない
二度と話しかけないでくれればそれでいい」
「エルニ様、おかえりなさい
怪我はありませんか?
何か変わったところは?」
「大丈夫だよ、ムエクの方は?」
「僕も大丈夫です
ただ……やはり人間を守るのは…」
「………ごめんなさい…アタシのせいで…」
「エルニ様のせいではないです!
気にしないでください」
「あの…エルニ様」
「ティノゼ君、どうしたの?」
「父さんが呼んでます
それから……」
「この前のこと、もう気にしなくていいよ
アタシもちょっと言い過ぎたよ
ごめんなさい
いつか必ず二人に話すから
アタシの心の準備ができるまでもうちょっと待ってて」
「え?」
「い、今…」
言葉の真意を聞く前にエルニはその場を去ってしまった
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