式典

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式典

「魔術師エルニとその弟子、ムエク 汝らは我が国の商団の安全に大きく貢献した それを讃えてここに式典を開催することを宣言する」 (一々こんな大々的にする必要なんかないのに 人間はやっぱり理解できない) 城の大広間、商団関係者が多く集まっている その全てが一度はエルニやムエクに護衛を頼んだ者達だ 「代表として魔術師エルニ、前へ」 「はい」 「エルニ様、頑張ってください」 「言われなくてもわかってるよ 大丈夫、ありがとう」 玉座の前まで進み、深く一礼する 「エルニ殿、此度は我が国の商団の安全に大きく貢献したことに、国民のみならず、王宮関係者達も深く感謝しておる よって、その褒美を与えよう あれをここへ」 従者達が上質な布の上に載せた何かを運んでくる 「なッ……え、あ、嘘…そんな」 「そこまで驚かれるとは やはりこれを選んで正解だったようだな これは、我が国にある"妖精の羽根"の中でも特に美しい物だ」 目の前で、シャンデリアの光を受け輝く羽根 きらびやかに輝くその様子とは相反して、エルニの顔は青ざめていた 「え……あ…あの、こ、こんな物を…… 戴ける、ほ、どの……活躍は…」 「何を謙遜する必要があるのか 貴殿とその弟子は、これを受け取るのに十分な活躍をなされたとこちらでは評価している さぁ、受け取れ」 脂汗が流れ、体が動かない 全身から血の気が引いていく −嫌だ!!助けて!!エルニ様!! 助けて!痛い!!死にたくない!!− 声が聞こえる 羽根をもがれる苦しみが 死への恐怖が 鮮明に伝わってくる 「どうされた?」 あまりに動かないエルニをその場にいる全員が不審に思い始めた 『エルニ様!エルニ様! 僕の声が聞こえていますか?』 ムエクは念話で必死に声をかけるがエルニからの返事は返ってこない 「エルニ殿、何故受け取らない? まさか、これでは気に入らないと?」 「………そうです」 場の空気が凍りつく 皆小声で口々にエルニの無礼を批難する そんな空気などお構いなく毅然とした口調で続けるエルニ 「陛下、これにはきちんとした理由があります アタシ達は他の魔術師と違った魔力を使うのはご存じですか? アタシや弟子のムエクは、自然より力を借りて魔力を発揮しています つまり、自然の統治者であった妖精族達の力を少なからず借りていることになるのです 力を借りる、ということは自然と同調する つまり、妖精族と少なからず同調するという事になります ですので、アタシやムエクには聞こえるのです その羽根の持ち主の声が 助けを求める悲痛な叫びが ですから、私達はそれを受け取れません」 「フム、それは悪いことをしたな」 「いえ、私達が特殊な方法で魔力を発揮しているので、ご存知でなくとも仕方がないです」 「しかし、そうなると報奨はどうしたものか……」 「アタシ達は皆様が安全にお過ごしになれる、という事が一番の報奨です ですので、特別な物は一切必要ありません その心遣いだけありがたく受け取っておきます」 「……………」 俯き、一言も発さない陛下に辺りがざわめき始める 「陛下?」 従者が心配して駆け寄る 「あいつ、終わったな」 「あんな無礼な事を陛下に対してよくもスラスラと言えたものね」 (なんとでも言えばいい これが精一杯のごまかし 本当はここにいる全員を殺したい 少しでもこの声が聞こえないように あいつらの悲鳴で全部かき消したい でも……) 『ごめんね、ムエク ムエクの気持ちを考えずに言っちゃって 絶対にあなただけは手出しさせないから、許して』 『エルニ様が謝ることではないです たとえどうなろうと僕はエルニ様についていきます』 『ありがとう、ごめんね』 「素晴らしい!!」 「え?!」 突然の出来事に会場は大きくどよめいた 「目の前の利益に目が眩むどころか、自然への敬意、更には妖精族にまで敬意を払うその姿勢、とても気に入った 私はそういう人物を探していた 欲に眩まない他人への敬意を忘れない人物を 我が息子の妃に最適だ 是非、我が息子の妃になってほしい 王族での暮らしは今ある暮らしとは比べ物にならないくらい素晴らしいぞ? それこそ、こんな妖精族の羽根などいくらでも買えるくらいのな」 「は?!ちょ、ちょっと待ってくださいよ陛下!! そんな急に、無茶です! まず身分が違いすぎますよ! 一介の魔術師風情が王族の、しかも王子と結婚? そんなこと、周りだって許したりはしないんじゃ? それに、アタシには弟子のムエクがいます 彼はまだアタシが指導しなければならないのです だから……!!」 「我が国では身分の違いによって結ばれない、などと言う不平等なことはせぬ 弟子は特別に、王宮に入っても共に修行ができるようにしよう どうだ?これなら受け入れてくれるだろう?」 「それでもやっぱり…」 「それはいい案ですね陛下 でわ明日より、早速日程のご相談に参りましょう」 「は?ちょ…トレミル?今、何て?」 「そうだな、なるべく早く決めたほうが良いな さぁ、皆の者! 今日はとてもめでたい日だ! 我が息子の王妃が決まった、非常にめでたい日だ!! 皆の者、新たな王妃に盛大な祝福を!!」 会場にいる者達はあまりに急な出来事に戸惑いつつも、皆大きな拍手エルニに送った
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