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後ろから何者かに貫かれる
影に隠れて、襲撃者の姿は見えない
「久しいな、憎き女神族」
「その魔力……まさか…お前は?!」
「ハッッ!!」
反射的に体が動いた
突然女神族の首から上が破裂する
花のように鮮血や肉片が辺りに飛び散った
傷口には既に枯れた蔦が内側からはえている
「ティノゼ君、ムエク!!」
襲撃者の横を抜け二人のもとに駆け寄る
失った手足ははいつの間にか戻っていた
二人を掴んでいたトレミルは既に死んでいる
二人の傷口は黒いものが白く光っている部分を非常にゆっくりではあるが、覆っていっている
女神族の聖痕”スティグマ”を治療する方法は二つ
女神族自身が魔力を解くか
正反対の魔力、つまり魔神族の魔力で中和するか
「二人の傷は心配するな
まだ魔力が回復しきっていないから、時間はかかるが必ず回復す」
そ
「ありがとうございます!!
やはり、貴方様だったのですね
”ゼノディア様”、大きくなられましたね
以前お会いした時はあんなに小さかったのに」
「当たり前だ、俺達魔神族が封印される前の時だからな
しかし、お前羽根はどうした?」
「事情があって隠していたのです
しかし、その事情も今関係ないものになりました」
そう言うエルニの背中には美しい羽根が戻っていた
窓から差し込む日光が、虹色の鱗粉を美しく照らし出す
「いつ見ても美しいな」
「お褒めいただきありがとうございます
ゼノディア様、お強くなられましたね
見違えるようでした」
「あいつ程度ならお前でも殺せただろう
なぜそうしなかった?
人質がいたからか?」
「……お恥ずかしながら、そうです
後は…迷いですかね
ですが、貴方様のおかげですべて吹っ切れました
本当にありがとうございます」
「なに、昔の恩を返してやっただけだ」
「ところで、ゼノディア様
一体どうやってここにいらっしゃったのですか?
もしかして、既に封印は解かれたのですか?」
「いや、まだだ
俺だけ一人で出てきたんだ
その代わり、魔力も体力も尽き、姿形もアメーバのような状態だったがな
今は魔力以外は大方回復した
お前を探し出すためにな」
「アタシをですか?」
「あぁ、魔神族の復活を遂げるにはお前の力が不可欠なのだ
封印を解くためには大量の人間の魂を外側から捧げる必要がある
今、ここで妖精族と我ら魔神族とで同盟を結ばないか?
共に人間と女神族共に絶望と復讐をもたらしてやらないか?」
「その提案、是非受け入れさせてもらいます!
ですが、一つこちらからも提案させてもらえますか?」
「なんだ、言ってみろ」
「今残っているドルイド族と、ムエクの安全の保障をしていただけませんか?
皆、戦えない者達ばかりです
その分の働きはアタシが必ずしてみます」
「フム…従者はわかるがなぜドルイド族まで庇うのだ?
お前を利用し、裏切った種族だぞ?」
「ティノゼ君は、アタシを裏切ってはいません
ずっとアタシ達の味方でした
そんな彼を独りにしてあげたくないんです
同じ種族の仲間がいなくなることは、とても辛いことです
アタシやムエクはよくわかっています
彼も、同じ経験をしています
アタシにはまだムエクがいますが、彼は独りぼっちになってしまいます
だから…お願いします」
「いいだろう、ドルイド族並びに”妖精族”の安全は保障しよう」
「妖精族…?ムエクのことですよね?
(さっきは従者って言ってなかったっけ?)」
「従者だけではない
生き残った妖精族全てだ」
「えっと……?それは……妖精族はもうアタシとムエクしか…」
「妖精王の森の大焼失の時に拐われた者達ことか?
拐われた妖精族の一部の者は救出している
助け出した者達は今は仮の俺の拠点で過ごしている」
「う………そ……本当ですか?!
本当に…皆無事なんですか!?
あぁ……よかった……本当に…本当に…ありがとうございます…」
視界が歪み、熱いものが頬を伝う
涙が出たのはいつぶりだろうか
聖戦の頃に己の無力さを嘆いたあの日以来、
自責の念と死者の声により、涙よりも空虚が心を満たしていた
それが今、少しだけ癒やされた
「残念だが、全ての者達の救出はできなかった
俺が行った頃には既に何人かは殺されていた
すまない、もっと早く向かっていれば助かっていたかもしれなかった」
「ゼノディア様のせいではありません
元は彼等を守り切れなかった、アタシの力不足によるもの
それから強欲な人間と女神族共のせいです
この代償は、魔神族の皆様の分まで必ず払わせてやりましょう」
「そうだな、お前が味方に付いてくれてこちらも非常に心強い
積年の恨み、女神族と人間の殲滅という形で共に晴らそう」
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