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正体
床に向けて翳した手を上に挙げる
その動きに合わせて美しく巨大な花がはえる
大きく突出した雌しべの先に魔力を集中させる
集中させた魔力は徐々に雫姿を変える
(傷の回復だけならこれくらいで大丈夫かな‥‥)
そう思った矢先
「なッ?!」
突然の激しい虚脱感
急激に魔力が奪われていくのが原因だ
奪われた魔力はそのまま雌しべの先に集中していく
「なッ…?!……この‥力まさか…?!」
魔力の流出は止まらない
一度魔力を断って花を解除しようとするもそれすらできない
それどころかさらに早いスピードで奪われていく
雌しべの先端から雫が離れると同時に魔力が切れ、意識が途絶えた
ドルイド族
妖精族よりも戦闘能力の低いこの種族は、先の聖戦で滅ぼされた
そう思われていた
妖精族よりも更に少ない数が人知れず生き残っていた
ドルイド族に稀に生まれる戦闘能力を持つものは、他の種族の魔力を吸収して己の力とする
更により能力の高い者は魔力の流れも操れる
「……ん?……ここは…?」
ベットの上で目覚めた
体を起こしてあたりを見渡すと、ベットに寄りかかって眠る存在に気づいた
「この羽は……妖精族?
でも…どうして?」
中立といえど、女神族と人間を嫌う妖精族
まだどの種族にもドルイド族が生き残っていることは知られていない
故に、魔力を隠すとほぼ人間と変わらないドルイド族を助けるとはとても思えなかった
実際、何度かまたあの頃のように二つの種族で協力し合わないかと交渉に来たことがあるが、そのたびに追い返された
話は一度も聞いてもらえなかった
しかし、魔力を隠さないと都合が悪いことが多すぎるので、どうしてもできなかった
だから、ドルイド族は妖精族と協力することを諦めた
と、幼い頃に教えられた
その時、妖精族の容姿についても聞いた
ある者は女神族と並ぶほどに美しいと
またある者は妖精族の中でも、それらを統べる王は女神族よりも更に美しいと
実際女神族は見たことはないが、今隣で眠る妖精は確かに美しい
容姿端麗で儚げな雰囲気
宝石のような美しい羽
その美しさに思わず見惚れていると、目が覚めたようだ
こちらを見つめる潤朱色の瞳はまさに宝石のようだった
「……えっと…あー、起きたの
傷の具合はどう?」
「えッ…あ、いえ、特に問題は‥ないです
手当していただきありがとうございます」
あまりの美しさに見惚れてしまい、つい声が裏返ってしまった
「そう、それは良かった」
しかし、そのことなど気にも止めず大きく伸びをする
その一挙一動にも見惚れてしまう
「ん?アタシの顔に何かついてる?」
「いえ…!違います」
「そう
まぁそんな事よりも、まさか君がドルイド族だったとはね
ドルイドの戦士、それもかなり高い能力を持っていると見える
まさか魔力を全部取られるなんてね」
「申し訳ありません
命の危機に瀕してると反射的に近くの魔力をありったけ吸い取ろうとしてしまうのです」
「君が無事ならそれでいいよ
謝らなくても大丈夫
それより、ドルイド族が生き残っていたなんて……
と言うことは前に来ていた人間はもしかして……?
どうして隠していたの?」
「その……まだドルイドが生きているとバレると都合が悪くなるので…
すみません」
「そう…それなら仕方がないか
今まで信じてあげれなくてごめんなさい
そう言えば名前まだ聞いてなかったね
アタシはエルニ、君は?」
「ティノゼといいます」
「ティノゼ君か、よろしくね」
「よろしくお願いします」
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