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原因
「ところで、ティノゼ君
君はどうしてあんな怪我を負って来たの?」
「実は……私達は今人間として暮らしているのですが、仕事で荷物の配達中に……
聖獣が………」
聖獣
様々な動物の姿をした女神族が飼っている生き物
その中でも聖火を操る狼の姿をした聖獣は獰猛で魔力を持つ者、更には人間までもその牙にかける
「なッ…?!聖獣って……女神族の飼い犬の?
どうしてそんなのが野放しに?」
「今の人間の住む場所ではそれが当たり前なのです
時折襲われる者もいるようですが‥人間達は女神様の与えた試練だと言って容認しているようなのです
あの時……聖獣は自分の住処にあのとき居合わせたみんなを連れ込み……一人一人……ゆっくりと……
あいつはきっとわかっていたのです!
私達が人間じゃない事を!
だから……それで……皆……
私は他の人のおかげで命からがら逃げてきたのですか……
残った人は……もう………」
「……ごめんなさい……辛いことを思い出させちゃって」
「いえ……取り乱してしまってすみません」
「ドルイドは今何人くらいいるの?」
「今は600人ほど」
「600人か
(その全員が同じような危険に晒されているとなると……)」
コンコン
「エルニ様、起きていらっしゃいますか?
エルニ様が出てこられないので皆心配していますよ」
扉越しにムエクの心配そうな声が聞こえてくる
「大丈夫、起きてるよ」
「そうですか
それで…昨日の男は……?」
「彼は大丈夫
後でみんなに紹介するから」
「紹介?」
「あとでまとめて説明するから皆を集めておいて」
「……わかりました」
「ティノゼ君、体に異変はない?」
「はい、大丈夫ですが…?」
「今のところは異常なしか……
でも、一応2、3日は様子を見たほうがいいかな
里まで少し長旅になるだろうし、途中で倒れたりしたら大変だからね」
「お気遣いありがとうございます」
「皆!今日はとってもいいお知らせがあるの!」
「良いお知らせ?」
「エルニ様ついにムエク様と番になられるのですか?」
「なッ?!こら、勝手にそういう事を言うんじゃない!!」
「えー、だってムエク様はエルニ様の事が……」
「わー!!わー!!
みんな静かに!エルニ様が話すんだぞ!」
「今一番うるさいのはムエクだけどね
一回落ち着こっか」
「も、申し訳ありません……」
顔を真っ赤にして取り乱すムエクが落ち着いたのを見計らって本題に入る
「さて、いいお知らせっていうのはね
なんと!昨日迷い込んできたのはドルイドの生き残りの方だったの!
ティノゼ君、出てきていいよ
今は訳があって魔力を隠してるけど、確かにドルイド族だからね」
「皆様、ドルイド族のティノゼといいます
よろしくお願いします」
皆ドルイド族の生き残りと知ってざわつく
無理もない
かつて協力関係を結んでおり、非常に仲が良かった者達が生きていたこと
また2つの種族で協力しあえること
二度と戻ることがないと思っていたあの時が戻ること
皆喜びの色を見せていた
「さて、ドルイド族は今とてもひどい状況に置かれているの
そこで、この森にドルイド族達を移住させてあげようと考えてるんだけど
皆異論はない?」
「そんなのあるわけないじゃないですか!」
皆口々に賛成の意を示す
「ちょ、ちょっと待ってください!
それでは妖精族の皆さんに迷惑が……」
「大丈夫、この森は女神族や人間は奥まで入りこみにくい天然の要塞だし、
入って来たらすぐにわかるから対処もしやすい
実際今まで何回も人間や女神族が入ってきたけど今皆が無事でいるのはどうしてかすぐわかるでしょ?
ここなら人間のふりをして魔力を隠すこともしなくていいんだよ
今までの非礼のお詫びも兼ねて是非おいでよ」
「そんな…とても光栄です…!!
里に帰ったらすぐにみんなに知らせます!」
それから数日の時が過ぎた
「あの…エルニ様やっぱり私一人で帰った方が……」
「どうして?
また襲われたいの?」
「ですが…この森を守る人が減るのでは?
ドルイド程とは言わずとも、妖精族も戦える者は少ないのでしょう?
それに…ここ二、三日であなたがムエクさんをいかに信頼しているかわかりました
だからこそ、ムエクさんは森に必要なのでは?」
「ムエクを信頼しているからこそ君の護衛につけるんだよ
そんなに長い時間はかからないと思うから、アタシ一人でも大丈夫」
「そう……ですか
気をつけてくださいね」
「二人こそ気をつけてね」
不穏な影はすぐそこまで迫っていることなど知りたくなかった
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